上場株式を相続する際の手続きの流れ
相続が発生した際には、10カ月以内に相続税の申告を行う必要があります。上場株式の相続手続きをスムーズに進めるためには、その流れをしっかりと把握しておくことが重要です。
相続人および相続財産の確認
相続手続きを始めるには、まず相続人を確定する必要があります。そのためには、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本を取り寄せ、確認しましょう。戸籍謄本を通じて、知らなかった養子や婚外子の存在が発覚するケースもあります。
次に、亡くなった方が保有していた株式の資産状況を確認します。取引のあった証券会社に、口座名義人が死亡したことを伝え、株式の残高証明書と相続手続きに必要な書類を発行してもらいましょう。もし、亡くなった方が取引していた証券会社が不明な場合は、「証券保管振替機構」に問い合わせることで、証券会社を確認できます。証券保管振替機構は、証券会社から預託された株券などを保管する機関であり、取引情報の開示を請求するには、開示請求書に必要書類を添付して提出します。
遺産分割協議
相続人が複数いる場合で、遺言が残されていない場合には、遺産分割協議を行い、財産の分け方を決定しなければなりません。相続人全員が財産分割の内容に合意したら、全員の署名・押印がされた遺産分割協議書を作成します。
名義変更手続き
遺言や遺産分割協議で株式を相続する人が決まったら、証券会社で名義変更の手続きを行います。名義変更には、相続人名義の口座が必要です。もし相続人が口座を持っていない場合、新規に口座を開設する必要があります。
名義変更に必要な主な書類は以下の通りです
- 証券会社所定の名義変更依頼書
- 戸籍謄本または法定相続情報一覧図
- 遺産分割協議書または遺言書の写し
- 相続人全員分の印鑑証明書
相続税の申告・納付
相続税の申告期限は、相続開始日の翌日から10カ月以内です。申告書は、亡くなった方の住所地を管轄する税務署に提出します。また、相続税の納付期限も同様に10カ月以内で、原則として現金一括で納付することが求められます。
これらの手続きを適切に進めることで、上場株式の相続をスムーズに行うことが可能になります。
株式の分割方法
相続人が複数いる場合、株式を遺産分割する必要があります。以下の3つの方法で株式を分割することが可能です。
現物分割
株式を換金せずにそのままの形で相続する方法を「現物分割」といいます。たとえば、すべての株式を1人の相続人が受け継ぐ場合や、2種類の銘柄を2人の兄弟でそれぞれ分ける場合がこれに該当します。株式は不動産と異なり、株数によって平等に分割できるため、現物分割は一般的な方法です。
代償分割
株式を1人の相続人が相続し、その代わりに他の相続人に代償金を支払う方法を「代償分割」といいます。たとえば、兄が評価額1,000万円相当の株式を相続し、弟に対して現金500万円を支払うケースです。この場合、兄弟それぞれの相続による利益は500万円ずつとなります。ただし、遺産分割協議書に代償金の支払いを明記していないと、代償金が贈与とみなされる可能性があります。
換価分割
株式を売却し、その売却代金を相続人の間で分配する方法を「換価分割」といいます。売却代金は法定相続分に従って分配することもできますし、遺産分割協議で別の分け方を合意することも可能です。相続人全員が投資に関心がない場合や、株式をすぐに現金化したい場合には、この方法が適しています。
株式の相続税評価について
株式は市場で日々取引価格が変動するため、相続税評価額をどのように決めるかが重要です。株式の場合、原則として相続発生日(死亡日)の終値が相続税評価額となります。しかし、株価の急変による不利益を避けるため、次の3つの価格のうち最も低いものが相続税評価額として採用されます。
- 相続発生日の月の毎日の終値の平均額
- 相続発生日の前月の毎日の終値の平均額
- 相続発生日の前々月の毎日の終値の平均額
これらの価格は、亡くなった方が取引していた証券会社に依頼して発行してもらう残高証明書に記載されているため、そこで確認することができます。
相続した株式を売却する方法
相続手続きが完了し名義変更が済むと、相続人は相続した株式を売却することが可能になります。
売却のタイミングに注意
株式投資の経験がない相続人にとって、売却のタイミングは悩ましいものです。株式は値動きが大きいため、売却の際は直近の市場動向をしっかりと確認することが大切です。
売却益にかかる税金
株式を売却した際の利益には、相続税とは別に譲渡所得税が課されます。この譲渡所得税は、給与所得や事業所得とは別に課税され、税率は20.315%です。譲渡所得は、売却代金から取得費と売却時の手数料を差し引いて計算されます。なお、売却により譲渡益が出なかった場合には課税されず、申告の必要もありません。
譲渡所得と取得費の計算
取得費とは、亡くなった方がその株式を購入した際に支払った金額です。取得費が不明な場合は、売却代金の5%を取得費とみなすことが認められています。また、相続税の申告期限から3年以内に売却した場合には、売却した株式に対応する相続税額を取得費に加算することができる「取得費加算の特例」が適用されます。
株式の相続に時効はあるか
相続手続きが完了してから数年後に、タンスなどから株券が見つかることがあります。このような場合、修正申告が必要かどうか気になるところです。
相続税の時効は原則5年
相続税の時効は、申告期限から5年が経過すると成立します。ただし、財産の隠蔽や虚偽申告などの不正行為があった場合は、時効が7年に延長されます。相続人が知らなかった株券が見つかり、申告期限から5年以上が経過している場合、追加の相続税申告は不要と考えられます。しかし、5年未満の場合は修正申告が必要です。税務署の指摘を受ける前に申告を行うことで、過少申告加算税の対象を避けることができるため、早急に申告することが重要です。
タンス株の名義変更
2009年に上場株式は電子化され、証券保管振替機構で管理されるようになりました。電子化の手続きが行われなかった「タンス株」は、信託銀行の特別口座で管理されています。この場合、名義変更手続きは証券会社では行えませんので、まず株式発行会社に問い合わせて、特別口座を管理している信託銀行を確認しましょう。その後、信託銀行の指示に従って名義変更手続きを行います。
未受領配当金を受け取る場合
見つかった株式に未受領の配当金がある場合は、発行会社の株主名簿管理人である金融機関で手続きを行います。多くの場合、株主名簿管理人は特別口座を管理している信託銀行であるため、株式の名義変更手続きと同時に配当金の相続手続きも進めることが可能です。ただし、上場企業の多くは定款で配当金の時効を3年または5年と定めており、時効が過ぎた配当金は請求できないため、注意が必要です。
株式の相続は、預貯金や不動産の相続とは異なり、評価方法や名義変更の手続きに独自のルールがあります。相続が発生した後に不明点が多いと、相続税の申告期限までに必要な手続きを終えることが難しくなる可能性があります。そのため、できるだけ相続が発生する前に、取引している証券会社や株式の概算時価を確認しておくことが重要です。
株式に限らず、相続手続きで困ることがあれば、信頼できる専門家に相談してみるのも一つの方法です。