相続人全員で話し合い、遺産分割協議書を作成したものの、「やはり納得できない」と感じるケースがあります。場合によっては、誰かが遺産を隠していたことが後で発覚したり、騙されたり脅されたりして無理やり協議書に署名・押印させられたことも考えられます。「あのときは冷静に判断できなかった」「騙されていた」などと主張して、遺産分割のやり直しができるのでしょうか?今回は、遺産分割のやり直しが可能なケースとそうでないケースについて、専門家が詳しく解説します。
遺産分割のやり直しができないケース
一度遺産分割協議を行い、相続人全員が合意した場合は、原則としてやり直しはできません。「気が変わった」「当時は冷静に判断できなかった」といった理由では、合意した内容を理解し、署名押印した以上、やり直しは認められません。 ただし、以下のような場合には例外としてやり直しが可能です。
遺産分割のやり直しができるケース
財産の漏れなどによる錯誤無効
遺産分割の際に重要な財産が見落とされており、「その財産の存在を知っていれば、遺産分割に同意しなかった」と判断される場合、相続人は「錯誤無効」を主張できます(民法95条)。この場合、遺産分割協議は無効となり、やり直しが可能です。
詐欺・強迫による取消
相続財産が故意に隠されていたため、他の相続人が誤解したまま遺産分割協議が成立した場合や、強迫(脅迫)によって恐怖を感じ、やむを得ず遺産分割に応じた場合には、詐欺や強迫を受けた相続人は協議を取り消すことができます。その結果、遺産分割協議は無効となり、再度の協議が可能です。
全員の合意によるやり直し
無効や取消の理由がない場合でも、相続人全員が遺産分割のやり直しに合意すれば、再度協議を行うことができます。
遺産分割をやり直さなければならないケース
次のような場合には、必ず遺産分割をやり直す必要があります。
相続人が漏れていた場合
遺産分割協議には、すべての相続人が参加しなければなりません。もし相続人が一人でも含まれていなかった場合、その遺産分割協議は無効となり、再度やり直す必要があります。
意思能力がない人が参加していた場合
認知症などで、遺産分割に必要な意思能力を欠いている人が協議に参加していた場合、その遺産分割協議は無効になります。その相続人には「成年後見人」を選任し、再び遺産分割協議を行う必要があります。
親子間に利害相反があった場合
例えば、父が亡くなり母親と子供が相続人になった場合、母親が子供を代理して遺産分割協議を行うことは、利害が相反するため認められません。もし、そのルールに反して母親が子供を代理して協議書を作成した場合、その協議は無効となり、家庭裁判所にて「特別代理人」を選任した上で、再度やり直す必要があります。
新たに相続人が現れた場合
「父を定める訴え」や「母子関係確認訴訟」などによって、遺産分割協議後に新たな相続人が判明した場合には、その相続人を加えて再度遺産分割協議を行わなければなりません。
遺産分割審判はやり直しできない
家庭裁判所で遺産分割審判が行われ、遺産分割の方法が決定された場合、相続人が詐欺による取消や錯誤無効を主張してやり直しを求めることはできません。審判は裁判所が決定したものであり、相続人自身の意思で決めたものではないため、相続人の「意思表示に瑕疵があった」としても問題にはならないからです。
もし遺産分割審判に不服がある場合は、確定前に「即時抗告」を行って異議を申し立てるなどの対応が必要です。
まとめ:遺産分割協議の準備をしっかりと行うことが大切
遺産分割協議を行う際、相続人や相続財産の調査を十分に行わないと、後々やり直しのリスクが高まる可能性があります。トラブルを防ぐためには、協議を始める前に正確に相続人を確定し、財産の内容をきちんと確認することが重要です。また、認知症などで意思能力がない人を無理に協議に参加させることは避けましょう。
不安がある場合には、弁護士や司法書士に相談し、専門家のアドバイスを活用することが推奨されます。