相続放棄、3ヶ月過ぎたらどうすれば良い?弁護士が対処法を解説します。

相続放棄の期限は「相続開始を知ってから3ヶ月」

相続放棄とは、相続権を放棄するために家庭裁判所に申述する手続きです。これにより、プラスの財産を受け取らない代わりに、借金などのマイナスの財産も引き継がないことができます。特に、負債が財産の総額を上回る場合に選ばれることが多い手続きです。

相続放棄の期限は、「自己のために相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内」と定められています(民法第915条)。通常、相続の開始とは、被相続人の死亡を意味します。一般的に、被相続人の配偶者や子供などの近親者は、その日のうちに亡くなったことを知るため、相続放棄の期間は死亡日から3ヶ月となるケースがほとんどです。

一方で、疎遠になっている相続人の場合は、実際に被相続人が亡くなったことを知った日から3ヶ月以内が相続放棄の期限となります。このように、相続放棄の期間は、相続人ごとに異なる場合があります(最高裁判所昭和51年7月1日判決・家庭裁判月報第29巻第2号91頁)。

また、ある相続人が相続放棄を行った場合、その相続権は次順位の相続人に移りますが、この場合も新たな相続人の相続放棄の期限は「前順位の相続人が相続放棄したことを知った日から3ヶ月」となります。

目次

期限を過ぎたら相続放棄は不可|「知らなかった」は通用しない

相続放棄の期限である「相続開始を知ってから3ヶ月」を過ぎると、相続放棄はできなくなります。また、「期限を知らなかった」という理由は通用しませんので、注意が必要です。

期限後は原則として相続しなければならない

3ヶ月の期限を過ぎると、原則として相続放棄の手続きを行うことはできません。そのため、期限を過ぎた場合には、借金を含むすべての遺産を相続しなければなりません。「忙しくて手続きができなかった」や「相続放棄の制度を知らなかった」といった理由は認められません。

さらに、3ヶ月を過ぎると、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続する「限定承認」もできなくなります。限定承認は、負債の額が不明な場合にリスクを軽減するための制度で、プラスの財産がマイナスを上回る場合にはその差額を相続し、逆にマイナスが上回る場合には負債を引き継がないというものです。この制度は、実家など残したい財産がある場合にも有効です。

相続放棄も限定承認も行わずに3ヶ月が経過すると、「単純承認」をしたと見なされ(民法第921条2号)、プラス・マイナスに関わらずすべての財産を相続することになります。たとえマイナスの財産が多くても、相続を取り消すことはできませんので注意が必要です。

期限を過ぎても相続放棄が可能な例外ケース|「借金の存在を後から知った場合」

例外的に、借金の存在を後から知った場合には、期限を過ぎていても相続放棄が可能です。民法では「熟慮期間」が定められており、この期間内に相続の手続きを行う必要があります。期間は3ヶ月で、その開始点は「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」です。相続にはプラスの財産だけでなくマイナスの財産も含まれるため、借金を後から知った場合には、その時点から3ヶ月間の熟慮期間が始まります。

実際に、この熟慮期間に関する新たな法解釈が示された判例もあります(最高裁判所昭和59年4月27日判決・家庭裁判月報36巻10号82頁)。

このケースでは、相続人が生前ほとんど交流のなかった父親の入院を知り、亡くなった際に立ち会いましたが、父親の借金については全く知らなかったため、相続放棄や限定承認を行いませんでした。約1年後、裁判所から父親の保証債務(借金)の支払いを命じる判決が届き、借金の存在を知った相続人は、すぐに家庭裁判所に相続放棄を申述しました。

最高裁は、相続人と被相続人の関係性を考慮し、「債権者からの通知が届いて借金の存在を知った日」から3ヶ月以内が新たな熟慮期間であると判断しました。しかし、この判断は、「相続財産が全くないと信じることに相当な理由がある場合」に限られます。相続開始を知りながら、相続人としての必要な調査を行わなかった場合には、通常通りに相続開始を知った時点から3ヶ月と見なされる可能性が高いです。

被相続人が亡くなった後に財産調査を行っても、借金の存在がすぐに判明しない場合があります。そのような状況に陥った場合は焦らず、新たに設けられた熟慮期間内に相続放棄の手続きを行うようにしましょう。

相続放棄の期限が迫っている場合の2つの対処法

相続放棄の期限が迫っている場合には、「書類のみを先に提出する」か「3ヶ月の熟慮期間の延長を申立てる」という2つの方法があります。

書類のみを先に提出する

相続放棄の期限である3ヶ月が迫っている場合は、まず家庭裁判所に書類を提出することを優先しましょう。3ヶ月以内に書類が受理されなくても、必要な書類を期限内に提出していれば手続きとしては有効です。相続放棄のために家庭裁判所に提出すべき書類は以下の5つです。提出先は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。

  • 相続放棄申述書
  • 被相続人の住民票除票または戸籍謄本の附票
  • 相続放棄を申し立てる人の戸籍謄本
  • 収入印紙
  • 連絡用郵便切手

特に重要なのは「相続放棄申述書」です。もし他の書類が期限内に揃わない場合でも、相続放棄申述書だけでも期限内に提出し、他の書類の提出が遅れることを家庭裁判所に伝えておきましょう。相続放棄申述書が期限内に提出されていれば、手続きは認められます。

3ヶ月の熟慮期間の延長を申立てる

もし、期限内に相続放棄申述書を提出することが難しい場合には、期間の延長を申立てることができます(民法第915条1項但書)。相続放棄をするかどうか判断がつかない場合でも、相続開始を知った日から3ヶ月以内に期間の延長を申立てましょう。

熟慮期間の延長が認められるケースとしては、以下のような状況が考えられます。

  • 財産調査が進まず、借金の有無がまだ判断できていない場合
  • 新型コロナウイルス感染症の影響で期限内に相続放棄や承認ができない場合

これらのケースに該当する場合には、申立書を作成し、下記の手順で提出します。

まず、裁判所のウェブサイトから申立書をダウンロードし、申立の趣旨と理由を記入します。記入例は以下の通りです。

【申立の趣旨】 申立人が、被相続人相続太郎の相続の承認または放棄をする期間を令和●●年●●月●●日まで延長するとの審判を求めます。

【申立の理由】 申立人は、被相続人の長男です。
被相続人は令和●●年●●月●●日に死亡しました。同日、申立人は相続が開始したことを知りました。
申立人は被相続人の相続財産を調査していますが、被相続人は幅広く事業を展開していたため、相続財産が各地に分散しており、債務も相当額あると思われます。そのため、法定期間内に相続を承認するか放棄するかの判断を下すことが困難な状況にあります。この期間を●ヶ月延長していただきたく、趣旨のとおりの審判を求めます。

申立書を作成したら、以下の書類とともに家庭裁判所に提出します。

  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 申立人の戸籍謄本

また、収入印紙800円分と連絡用郵便切手も必要です。提出先は相続放棄申述書と同じく、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。

新型コロナウイルスの影響で財産調査が遅れるケースも多くなっています。こうした正当な理由がある場合には、期限内に相続放棄が難しい場合でも、期間の延長を申立てることで対応できます。

遺産放棄ができなくなるNG行為!急いでいてもこれだけは押さえておこう

相続放棄を考える際には、期間や手続きの注意点だけでなく、次のようなNG行為にも気を付ける必要があります。これらの行為を行うと、相続放棄ができなくなってしまうため、注意が必要です。

手続き前に遺産を処分しない

手続きを完了する前に遺産を処分すると、「単純承認」とみなされてしまいます(民法第921条第1号)。相続における「処分」とは、相続財産の形状や性質を変更する行為を指し、家屋の取り壊しも含まれます。

たとえば、被相続人が住んでいた賃貸アパートの遺品を処分することも「単純承認」に該当します。遺品に手をつけると、相続したと見なされ、相続放棄が不可能になります。さらに、相続放棄後に行った処分でも、背信的な行為と判断されれば、「単純承認」とみなされて相続放棄が無効になることがあります(民法第921条第3号)。

過去の裁判例では、少量の遺品を形見として持ち帰ることは問題とされませんでしたが、ほとんど全ての遺品を持ち帰ると「隠蔽」と見なされる可能性があります。

たとえ老朽化した実家を取り壊したい場合であっても、相続放棄を考えているなら処分してはいけません。ただし、壁の倒壊を防ぐための補修工事などの保存行為は「単純承認」には該当しません(民法第921条第1号但書)。

手続き前に遺産を隠さない

手続き前に遺産を隠すことも、相続放棄を無効にしてしまうNG行為です。たとえば、借金があるため相続放棄を考えているにもかかわらず、現金や預金を隠そうとする行為は、法律上、民法第921条第1号における「処分」に該当する可能性があります。相続放棄後にこの行為が発覚すれば、「単純承認」とみなされ、相続放棄が無効となり、借金の返済を請求されることになります。さらに、税務調査で発覚した場合には、追徴課税が課される可能性もあるため、注意が必要です。

現金預金だけでなく、宝石や美術品、家具、衣服なども財産的価値があるものとして扱われます。これらの物品を被相続人の自宅から勝手に持ち帰ると「相続財産を隠した」と見なされる可能性が高いです。財産的価値が明らかでないものでも、被相続人が所有していた状態を保つことが賢明です。

相続放棄以外に注意すべき期限

相続放棄の期限は3ヶ月ですが、それ以外にも注意が必要な期限がいくつかあります。以下の表を参考に、各手続きの期限を確認しておきましょう。

手続き期限
死亡届の提出(国内で亡くなった場合)7日以内
死亡届の提出(国外で亡くなった場合)死亡を知ってから3ヶ月以内
遺言書の確認・法定相続人の確認3ヶ月以内
財産調査3ヶ月以内
限定承認または相続放棄3ヶ月以内
所得税の準確定申告4ヶ月以内
相続税申告および納税手続き10ヶ月以内
遺留分減殺請求1年以内
埋葬料・葬祭費の請求2年以内
生命保険の請求3年以内

相続放棄以外にも、被相続人の所得税の準確定申告や相続税の申告には注意が必要です。これらの手続きも、被相続人の住所地を管轄する税務署に対して行います。その他の手続きに関しても、トラブルを避けるために期限を事前に把握しておくことが重要です。

遺産分割協議そのものに法定の期限はありませんが、相続放棄を期限内に行うためにも早めの対応が求められます。その他の手続きもできるだけ早く進め、予期せぬトラブルを避けるよう心がけましょう。

まとめ

今回は、相続放棄の期間について解説しました。相続放棄の熟慮期間は3ヶ月と定められており、その期間内に相続放棄申述書を家庭裁判所に提出する必要があります。正当な理由がある場合には期間の延長も可能で、その申立も家庭裁判所で行います。遺産を処分したり隠したりすると相続放棄が無効になる恐れがあるため、十分な注意が必要です。相続放棄や期間延長の手続きを自身で行うのが難しい場合は、専門家に相談することをおすすめします。

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この記事を書いた人

弁護士|注力分野:相続

現在は立川の支店長弁護士として相続分野に注力して奮闘しております。今後も相談者の心に寄り添い、活動していく所存です。どのような法律問題でも、お気軽にご相談ください。

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