現金相続の落とし穴!知っておくべき注意事項を弁護士が解説

現金の遺産相続は、他の財産と異なり、分割が比較的容易である一方で、適切な手続きを怠るとトラブルの原因となることがあります。このディスクリプションでは、現金の遺産相続に関する基本的な知識や手続き、注意点を分かりやすく解説します。相続の流れや必要な準備を理解し、スムーズに現金の相続を進めるためのポイントを提供します。

目次

相続における現金の取り扱い

相続における「現金」とは、文字通りお金そのものを指します。たとえば、タンス預金やへそくり、財布の中にあった現金がこれに該当します。

現金も他の相続財産と同様に取り扱われます。たとえば、1,000万円の現金がある場合、それはそのまま1,000万円の相続財産として、遺産分割の対象となります。

「現金」とよく似たものに「預金」がありますが、「預金」は銀行口座に入っているお金のことです。預金の場合、相続では口座にあるお金そのものではなく、「銀行口座から現金を引き出す権利」が相続財産として扱われます。そのため、相続人全員の同意がなければ、口座からお金を引き出すことはできません。

ただし、現金も預金も相続財産としては同じ「お金」として取り扱われるため、相続分の決定方法には大きな違いはありません。

現金を相続する際の注意点

ここでは、現金を相続する際の注意点について解説します。

現金は遺産分割協議で分配する

現金は、遺言書がある場合を除き、他の相続財産と同様に遺産分割協議で分配が決定されます。遺産分割協議が完了するまでは、現金はすべての相続人のものとみなされ、全員の同意がなければ誰も手を付けることはできません。

現金を隠す行為は絶対に避けるべき

「現金だから隠してしまってもばれないのでは?」と考える方もいるかもしれませんが、これは絶対に避けるべき行為です。相続財産である現金を隠す行為は、刑事罰の対象となる可能性があります。

さらに、現金を隠し、後から税務調査が入った場合には、延滞税や過少申告加算税、重加算税などのペナルティが科されるリスクもあります。相続税の申告を怠ったり、他の相続人に隠れて現金を持ち去る行為は絶対に避けるべきです。

現金を相続するメリットとデメリット

「分配がシンプルで手続きも簡単だから、遺産は現金のまま残そう」と考える方は少なくありません。しかし、現金の相続にはメリットとデメリットがあり、場合によっては不動産などに変えて遺す方が良いこともあります。相続の際には、これらのメリットとデメリットを踏まえて検討することが重要です。

現金を相続するメリット

手続きがシンプルで簡単

現金を相続する場合、不動産のように名義変更の手続きが不要です。預金の場合でも、銀行での名義変更が必要ですが、不動産ほど手間がかかりません。手続きがシンプルであることは、現金相続の大きなメリットです。

公平に分けやすい

現金は1円単位で分けることができるため、不動産のように物理的に分割できないものとは異なり、相続人同士で公平に分けやすいです。遺産分割の不公平さが相続トラブルの原因となることが多いため、現金を公平に分けることでトラブルを防ぐことができます。

相続後すぐに使用できる

不動産や株式を相続した場合、名義変更や売却の手続きが必要で、お金として使えるようになるまで時間がかかります。しかし、現金を相続すれば、遺産分割協議が終わり次第、すぐに使用することが可能です。

相続税の納税や遺留分の支払いに利用できる

相続税の納税や遺留分の支払いは、原則として現金で行われます。不動産のみを相続した場合には、換価して支払うか、自分で資金を用意しなければならないため、現金であれば支払いの際に困ることが少ないでしょう。

現金を相続するデメリット

現金はそのままの金額が相続税の対象になります。不動産の場合、相続税の評価額は購入時の金額よりも低くなることが多いですが、現金ではそのような減額はありません。そのため、高額な現金を相続する場合、不動産よりも相続税が高くなる傾向があります。

ただし、相続税がかかるのは遺産総額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の人数)を超える場合のみです。遺産総額が基礎控除を超えない場合には、相続税を心配する必要はありません。

現金を相続した際の相続税について

現金を相続する場合、相続税が高額になりやすい傾向があります。ここでは、現金相続に関する相続税について詳しく解説します。

相続税が発生するのは遺産総額が基礎控除額を超えた場合

相続税が課されるのは、遺産総額が相続税の基礎控除額を超える場合に限られます。

相続税の基礎控除額の計算式: 3,000万円+600万円×法定相続人の人数

たとえば

  • 法定相続人が1人の場合:基礎控除額は3,600万円
  • 法定相続人が2人の場合:基礎控除額は4,200万円
  • 法定相続人が3人の場合:基礎控除額は4,800万円

重要なのは、自身が相続した金額ではなく、遺産の総額が基礎控除額を超えた場合に相続税が発生するという点です。

例えば、法定相続人が2人で遺産が現金1億円の場合、課税対象額は【1億円-4,200万円=5,800万円】となります。同様に、現金5,000万円+不動産5,000万円の場合でも、課税対象額は【1億円-4,200万円=5,800万円】です。

配偶者が相続する場合、相続税がかからないことがほとんど

配偶者が相続する場合、相続税の控除が非常に大きいため、ほとんどの場合で相続税はかかりません。

配偶者控除の適用額: 以下のいずれか大きい方が適用されます。

  • 1億6,000万円
  • 法定相続分(※)

(※)法定相続分の例

  • 配偶者と子供が相続人の場合:配偶者の法定相続分は1/2
  • 配偶者と両親が相続人の場合:配偶者の法定相続分は2/3
  • 配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合:配偶者の法定相続分は3/4
  • 配偶者のみが相続人の場合:全額

このように、配偶者に対する控除が大きいため、相続税が課されるケースは非常に稀です。

現金を相続すると相続税が高くなる理由

相続税の課税額は、相続財産の評価額によって決まります。現金の場合、そのままの金額が相続税の対象となります。

一方、不動産の場合、一定の方法で評価額が決定されますが、その評価額は購入時の価格よりも低くなることが一般的です。また、不動産相続には、相続税を軽減するための控除や特例が数多く設けられています。現金にはそのような控除や特例がないため、相続税の対象額がそのまま課税対象となります。

結果として、現金を相続した場合は、不動産相続と比べて相続税が1.5倍から2倍程度高くなる可能性があることを念頭に置いておくべきです。

現金を相続税をかけずに相続人に残す方法

現金を相続すると、高額な相続税が発生する可能性があります。しかし、現金は柔軟に使えるため、できるだけそのまま相続人に残したいと考える方も多いでしょう。相続時に相続税を軽減するのは難しいですが、生前贈与を活用すれば、相続税をかけずに現金を相続人に残す方法があります。

ここでは、相続税をかけずに現金を相続人に渡すための方法をご紹介します。

年間110万円ずつ贈与する

生前贈与には贈与税がかかりますが、年間110万円までの贈与には非課税枠が適用されます。そのため、現金を相続人に残したい場合、毎年110万円ずつ贈与することで、贈与税をかけずに財産を移転することが可能です。

ただし、年間110万円という非課税枠は、受け取る側が受け取った贈与の総額に適用されます。たとえば、母から110万円、父から110万円を受け取ると、合計220万円となり、贈与税の対象となるので注意が必要です。

住宅取得資金の贈与特例を活用する

子や孫に対して、住宅購入やリフォーム資金として贈与する場合、一定の条件を満たせば、非課税枠に最大1,000万円までが加算されます。これにより、年間110万円の暦年贈与と合わせて、最大1,110万円まで非課税で贈与することが可能です。

教育資金の一括贈与特例を活用する

30歳未満の子や孫に対して、教育資金として一括で贈与する場合、非課税枠に1,500万円までが加算されます。これにより、最大1,610万円までが非課税で贈与可能です。

この特例を利用する場合は、専用の口座を開設し、教育資金として使用する際に領収書やレシートを金融機関に提出する必要があります。教育資金に含まれるのは、保育園や学校の費用、入学金や授業料などです。塾や習い事の費用については、認められる場合とそうでない場合があるため、事前に確認が必要です。

なお、教育資金として贈与された資金は、教育以外の目的で使用した場合や、30歳時点で残額がある場合には、贈与税が課されることになります。

結婚・子育て資金の一括贈与特例を活用する

20歳以上50歳未満の子や孫に対して、結婚や子育ての資金として贈与する場合、非課税枠に最大1,000万円までが加算されます。これにより、最大1,100万円までが非課税で贈与可能です。

この特例を利用する際も、専用の口座を開設し、使用する際には領収書やレシートを提出して証明する必要があります。結婚資金には婚活費用や結婚式費用、引っ越し費用が含まれますが、婚約指輪や新婚旅行の費用は対象外です。子育て資金には、不妊治療や出産費用、子供の医療費、育児費用(小学生まで)が含まれますが、習い事の費用は対象外となります。

また、この特例には以下のような制限があります

  • 結婚資金として使えるのは300万円まで(残りは子育て資金として使用)
  • 50歳を迎えた時点で残高がある場合は贈与税が課される
  • 贈与者が亡くなった場合、残高は相続財産に加算される
弁護士 御厨

現金の相続には、手続きがシンプルで手間が少なく、自由に使いやすいというメリットがあります。
しかし、その一方で、相続税が高額になる可能性があるというデメリットも存在します。ただし、相続税が課されるのは、遺産総額が基礎控除額【3,000万円+600万円×法定相続人の人数】を超えた場合に限られます。したがって、相続税がかからないケースでは、現金で遺すことも良い選択肢です。
また、現金相続について詳しく解説しましたが、預金の相続には口座の名義変更などの手続きが必要となる点もご注意ください。

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この記事を書いた人

弁護士|注力分野:相続

現在は立川の支店長弁護士として相続分野に注力して奮闘しております。今後も相談者の心に寄り添い、活動していく所存です。どのような法律問題でも、お気軽にご相談ください。

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