同居しているだけでは、基本的に遺産相続が有利になるわけではない
親と同居していた場合、遺産相続の際に兄弟に対して有利に進めたいと考えるのは自然なことです。しかし、結論としては、親と同居していたとしても相続の取り分が増えるわけではありません。遺言書がない限り、相続は法律に従って進める必要があるからです。
民法では、法定相続分が次のように定められています
- 子と配偶者が相続人の場合は、子と配偶者がそれぞれ2分の1ずつ
- 配偶者と直系尊属が相続人の場合は、配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1
- 配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1
- 相続人が複数いる場合は、各相続人の相続分は均等
民法第900条には「同居している」「していない」に関する記載がないため、遺産分割はこの法定相続分に基づいて行われます。
例えば、「母が亡くなった後、父と長男が同居していた。父が最近亡くなった」という場合、相続人が長男、次男、長女の3人であれば、同居していたかどうかに関係なく、それぞれが遺産を3分の1ずつ分け合うことになります。仮に父の遺産が3,000万円なら、各相続人は1,000万円ずつ相続することになります。
ただし、同居していることで結果的に多くの遺産を受け取れる場合もあります。次の章では、そのケースについて詳しく説明します。
より多くの遺産を相続できる2つのケース
「同居しているだけでは遺産相続で有利にならない」と聞いてがっかりするかもしれませんが、以下の2つのケースでは、同居していた相続人が他の相続人よりも多くの遺産を受け取る可能性があります。ご自身が該当するか確認しておきましょう。
- 寄与分を主張する場合
- 小規模宅地等の特例を利用する場合
これらについて詳しく解説していきます。
寄与分を主張する
被相続人と同居し、その財産維持や増加に特別な貢献をしていた場合、寄与分の主張が認められることがあります。寄与分とは、被相続人の財産を増やしたり、維持するために尽力した相続人が、通常の法定相続分に加えて受け取れる遺産のことです。
民法第904条の2によると、被相続人の事業を手伝ったり、介護をした相続人が特別の寄与を行った場合、相続分に寄与分を加えることができると定められています。
例えば、長男が仕事を辞めて父親の介護をしていた場合、その労力が評価され、通常より多くの遺産を相続できる可能性があります。ただし、寄与分が認められるためには厳しい条件があり、他の相続人とのトラブルを招くこともあるため、慎重な対応が求められます。
小規模宅地等の特例を活用する
被相続人と同居していた家を相続する際には、「小規模宅地等の特例」を利用することで、相続税を大幅に軽減できる可能性があります。
この特例は、亡くなった方が居住していた土地を相続する場合に適用され、土地の評価額を最大80%まで減額することができます。例えば、5,000万円の土地を相続する場合、通常であれば210万円の相続税がかかりますが、この特例を適用すれば相続税は発生しません。
【特例を使わなかった場合】 (相続財産5,000万円-基礎控除額3,600万円)×税率15%=210万円
【特例を使った場合】 5,000万円-(5,000万円×80%)=1,000万円(土地の評価額) (相続財産1,000万円-基礎控除額3,600万円)×税率=0円
ただし、特例を利用するには、いくつかの要件を満たす必要があります。詳細は「小規模宅地等の特例を利用して相続する手順」で確認してください。
寄与分を主張して相続を有利に進める方法
前章で解説した通り、同居していただけでは寄与分が認められるわけではなく、実際にどれだけ貢献したかが重要なポイントとなります。
例えば、「仕事を辞めて親の介護をしていた」「無給で家業を手伝っていた」といった場合、被相続人の財産の維持や増加に貢献した相続人には、寄与分が認められることがあります。
寄与分を主張するための手順は、以下の通りです。
寄与分を主張して有利に進める手順
- 寄与分が認められる7つの要件を確認し、主張が可能かどうかを判断する
- 遺産分割協議で寄与分を主張する
- 調停を申し立てる
まずは、寄与分が認められるための7つの要件について詳しく見ていきましょう。
寄与分が認められる7つの要件
- 寄与行為が相続開始前であること
- その寄与行為が被相続人にとって不可欠だったこと
- 特別な貢献であること
- 被相続人から対価を受け取っていないこと
- 寄与行為が一定期間にわたって行われたこと
- 片手間ではなく大きな負担を伴うこと
- 寄与行為と被相続人の財産の維持・増加に因果関係があること
これらの要件をすべて満たしている場合、寄与分の主張が認められる可能性が高くなります。ただし、これを証明するための資料が必要です。証拠がない場合、寄与分が認められない、あるいは少額にとどまることもありますので注意が必要です。
遺産分割協議で寄与分を主張する
寄与分は、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)で主張しなければ認められません。他の相続人が寄与分を認め、相続分に反映した遺産分割ができれば話はまとまりますが、相続分が減るためにすぐに納得してもらえるケースは少ないです。
相続人全員の合意が得られない場合、遺産分割協議は不成立となり、最終的には調停に持ち込まれることがあります。その際は、以下の方法を試して説得を試みてください。
調停の申し立てを行う
遺産分割協議で寄与分を認めてもらえなかった場合は、家庭裁判所に調停の申し立てを行うことができます。調停では、双方の当事者から話を聞き、第三者の立場から解決策やアドバイスが提示され、合意を目指した話し合いが進められます。
もし調停でも解決に至らなかった場合は、審判手続きに移行します。審判では、裁判所が寄与分に関する証拠を詳細に検討し、最終的な判断を下します。
このように寄与分を主張する手順は整っていますが、他の相続人とのトラブルを引き起こす可能性もあります。そのため、確実な証拠を集めたり、専門家に依頼することが円滑な進行のために重要となります。
小規模宅地等の特例を活用するための手順
先ほど触れた「小規模宅地等の特例」は、特に規模の小さな土地に対して、土地の相続税評価額を最大80%減額できる特例です。この特例を利用すると、相続税を大幅に軽減できるため、大変有利な制度です。
ただし、減額される割合が大きい分、適用されるための要件も厳しいため、まずはご自身が該当するか確認することが必要です。特例を利用する手順は以下の通りです。
小規模宅地等の特例を利用する手順
- 特例の要件を確認する
- 必要な書類を準備し、税務署に申告する
それでは、それぞれのステップについて詳しく説明します。
特例の要件を確認する
特例が適用される土地には、面積や利用状況によってさまざまな要件が定められています。主な土地の種類と減額割合は以下の通りです。
土地の種類 | 限度面積 | 減額割合 |
---|---|---|
特定居住用宅地等(住宅のある土地) | 330㎡ | 80% |
特定事業用宅地等または特定同族会社事業用宅地等(事業を行っていた土地) | 400㎡ | 80% |
貸付事業用宅地等(貸していた土地) | 200㎡ | 50% |
ここでは、特定居住用宅地等を相続する場合の要件について詳しく説明します。
相続する人の要件
小規模宅地等の特例は、被相続人と同居していた相続人や配偶者が利用できる特例です。以下の条件を満たす場合にも特例が適用されます。
【相続する人の要件】
- 被相続人の配偶者
- 被相続人と同居していた親族
ただし、住民票が同じであっても、実際に同居していた実態がない場合は特例の適用は受けられません。
同居していなくても適用されるケース 以下のような場合でも、特例が適用されることがあります。
- 一時的に単身赴任していた場合
- 二世帯住宅での同居
- 被相続人が老人ホームに入所していた場合
これらの要件を満たしているか確認し、該当する場合は特例を適用することが可能です。詳しい要件については、国税庁のホームページ「No.4124 相続した事業や居住の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」で確認できます。
土地の要件
小規模宅地等の特例は、被相続人が居住していた土地に適用されます。土地の面積によっても適用範囲が変わり、居住用宅地の場合は330㎡までが対象です。これを超えた部分は通常の評価額で計算されます。
例えば、400㎡の土地を相続する場合、330㎡分は80%減額され、残りの70㎡分は通常の評価額として計算されます。
居住用宅地の相続における要件
居住用宅地の相続では、相続人の立場に応じて要件が異なります。
【居住用宅地等の要件】
- 被相続人の配偶者:無条件で適用
- 被相続人と同居していた親族:相続開始から申告期限まで居住し、土地を所有していることが条件
同居していた場合、亡くなる前の同居期間に制限はありませんが、亡くなった後も相続税の申告期限(10ヶ月)までその土地に住み続けることが要件となります。
必要な書類を準備して税務署に申告する
小規模宅地等の特例を利用したい場合、相続税の申告が必要です。たとえ特例により相続税が発生しない場合でも、申告を忘れずに行うことが重要です。
申告の際には、以下の書類を準備する必要があります。
- 相続税の申告書
- 遺言書の写しまたは遺産分割協議書の写し
- 被相続人の全ての相続人を明らかにする戸籍謄本(相続開始日から10日後以降に作成されたもの)
- 相続人全員の印鑑証明書
- 申告期限後3年以内の分割見込書(申告期限内に分割が完了しない場合)
相続人によっては追加で必要となる書類があるため、詳しくは国税庁の「相続税の申告手続き」を確認してください。
必要書類が揃ったら、被相続人の住所地を管轄する税務署に申告書を提出します。相続税の申告期限は、原則として被相続人が亡くなった日から10ヶ月以内です。速やかに遺産分割を行い、期限内に申告を済ませましょう。
相続争いに発展しないための注意点
寄与分を主張する場合、相続人同士の話し合いが基本となるため、争いに発展するリスクがあります。相続争いが起こる主な理由は次の通りです。
- 寄与分が認められるかどうかや金額に対する相違
- 寄与分の証明に関する相違
- 寄与分の支払い期限や方法についての相違
相続人間では、自分が負担した費用や労力が寄与に当たるかどうか、寄与分の金額や支払い方法について意見が食い違うことがあります。これらの相違が解決しない場合、相続人間での話し合いが長期化し、最終的には法的手段に進む可能性もあります。
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相続の話し合いを円滑に進めるための3つのポイント
遺産分割を争わずに円満に進めるためには、以下の3つのポイントを押さえておくことが重要です。
- 相続に関する法律の知識を持つ
適切な法的知識を持つことで、各相続人が権利や義務を正しく理解し、話し合いがスムーズに進みます。 - 中立の立場で話し合う
感情的にならず、中立的な立場で意見を出し合うことが円満な話し合いを進めるための鍵です。 - 専門家を活用する
弁護士や税理士といった専門家を早い段階で活用することで、話し合いをスムーズに進めることができます。専門的なサポートを受けることで、問題解決が効率よく進むでしょう。
相続に関する話し合いは人生で何度も経験するものではありません。ポイントを押さえた話し合いで、スムーズに遺産分割を進めましょう。
相続に関連する法律の知識を持つ
相続の話し合いを円滑に進めるためには、相続に関する法律の知識を持っておくことが非常に重要です。知識が不十分だと、本来受け取れるべき相続分が減少したり、不必要に多額の相続税を支払うことになりかねません。
相続に関わる法律知識には、次のようなものがあります。
- 相続の手続き
- 相続財産の分配方法
- 遺言書の作成
- 遺産分割協議
- 遺言執行の流れ
- 相続税に関する知識
中立の立場で話し合う
相続に関する財産や資産は、家族全員にとって重要なものです。そのため、感情的にならず、中立の立場で話し合うことが非常に大切です。自分の利益ばかりを優先すると、他の相続人との合意を得られず、話し合いが難航する原因になります。
寄与分を主張する際でも、中立的な態度で話し合いを進めることが必要です。感情的な対立を避け、以下のポイントを意識して話し合いを進めましょう。
- 感情的にならないこと
- 相手の意見を最後まで聞くこと
- しっかりと証拠を示すこと
- 事前に話し合う内容を整理しておくこと
これらを心がけることで、相続人同士が理解し合える環境が整い、公平でスムーズな遺産分配が可能になります。自分自身の利益だけでなく、相続人全員が納得できる結果を目指すことが重要です。
専門家を活用する
相続に関連する法律の知識を個人で習得するのは大変ですし、話し合いが円満に進まない場合、トラブルに発展することもあります。そんなときは、専門家を活用することが円滑な進行に役立ちます。
相続に関する専門知識を持つ専門家には、以下のような種類があります。
専門家 | 対応範囲 |
---|---|
弁護士 | 相続全般に関する法律アドバイス、遺産分割協議や調停、審判の代理、寄与分主張のサポート、遺言書や遺産分割協議書の作成 |
税理士 | 相続税や贈与税のアドバイス、税務申告書の作成、納税申告 |
司法書士 | 不動産の相続登記や遺産整理業務 |
行政書士 | 遺産分割に関する行政手続きの代行、遺産証明書や分割書類の作成、公正証書の交付申請 |
専門家によって対応範囲が異なるため、どの専門家に依頼するか検討する必要があります。特に遺産分割を円滑に進めたい場合は、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は相続全般の法律問題に精通しており、法律に基づいた適切なアドバイスを提供します。
さらに、弁護士に依頼することで、感情的な対立を避けつつ、あなたに有利な条件で交渉を進めてくれるでしょう。専門家の助けを借りることで、安心して相続手続きを進めることができます。
同居していた親が亡くなった場合、より多くの遺産を受け取りたいと考えることもあるでしょう。しかし、遺産の分割は法律に基づいて行われるため、必ずしも有利になるわけではありません。
例えば、兄弟3人が相続人の場合、それぞれ平等に3等分され、同居していたからといって特別に多く相続できるわけではありません。
ただし、次の2つの方法を利用すれば、より多くの遺産を受け取ることができる可能性があります。
これらの方法を活用するためには、一定の適用要件を満たす必要があります。また、寄与分を主張する場合は、他の相続人の取り分を減らすことになるため、トラブルの原因となることもあります。
相続の話し合いを円満に進めるために、弁護士に相談することを検討してください。