相続は、家族間での思いがけないトラブルを引き起こすことが少なくありません。特に、遺産分割や遺言の不備、不動産の扱いなどが原因で、親族同士の争いが発生しやすい状況です。本記事では、相続にまつわるよくあるトラブルの事例や、その予防策について詳しく解説します。円満な相続を実現するための対策を知り、家族間のトラブルを未然に防ぎましょう。
遺産相続トラブルは「相続人同士の争い」から発生する
遺産相続におけるトラブルの多くは、相続人同士の対立によって引き起こされます。令和3年には、家庭裁判所に持ち込まれた遺産相続の案件が、認容・調停成立件数だけでも6,996件に達しています。つまり、6,996件以上の家族が相続をめぐって争い、トラブルに発展していたことがわかります。
では、なぜ相続人同士が争いを起こしてしまうのでしょうか?その理由としては、主に次の2つの要因が考えられます。
- 資産に関する問題
- 家族関係に関する問題
これらの問題が相続をめぐるトラブルの原因となりやすく、適切な対策がない場合、家庭裁判所での争いにまで発展することが少なくありません。
資産に関する問題で起こりやすい3つの相続トラブル
資産に関連する問題は、遺産相続トラブルの原因となりやすい要素の一つです。
以下に、特にトラブルが起こりやすい3つのケースを紹介します。
【ケース1】遺産の大部分が自宅の土地・建物のみの場合
自宅の土地や建物といった不動産は、分割が難しい資産です。このため、遺産が主に自宅の不動産に集中している場合、相続人の間で遺産の取得額に大きな差が生じやすく、トラブルの原因となることが多いです。
たとえば、長男と長女が法定相続人である家族の場合、遺産の大半が自宅の土地と建物で、長男夫婦がその家に同居していたとします。長男は自宅を相続したいと考えていますが、長女は自身の相続分である1/2を主張し、納得がいかないという状況が生じる可能性があります。
このように、遺産が不動産に集中していると、相続人の間で相続額に大きな不均衡が生じ、遺産相続トラブルに発展しやすくなります。
生前にできるトラブル防止策
トラブルを未然に防ぐためには、代償分割という方法があります。これは、長男が自宅を相続し、その代わりに長女に現金で補償することで、相続分を調整する方法です。しかし、代償分割には長男が十分な資金を用意する必要があります。
そのため、被相続人である父親が生前に、自身の死後にトラブルが発生しそうな状況を理解し、長男・長女と代償分割について話し合うことが重要です。長男が計画的に資金を用意しておくことで、将来のトラブルを防ぐことができるでしょう。
【ケース2】被相続人が会社を経営していた場合
被相続人が会社を経営していた場合、相続においてトラブルが生じやすいです。経営者が亡くなると、後継者が会社の事務所や自社株式を引き継ぐことになりますが、会社関連の財産は高額になる可能性があり、その分相続に不均衡が生じやすくなります。
たとえば、法定相続人が長男と長女で、それぞれ1/2の法定相続分がある場合を考えます。経営者である父が亡くなり、長男が後継者として会社の事務所や自社株式を引き継いだとしましょう。経営が安定しているため、会社関連の財産価値は非常に高額になり、結果として長男が相続する遺産が、長女が受け取る遺産を大きく上回る可能性があります。
長女は自分にも1/2の相続権があると主張し、長男だけが大きな遺産を受け取ることに納得がいかないと感じるでしょう。一方で、長男は株式の分散によって経営に支障が出ることを懸念し、会社関連の遺産を自分が全て相続したいと強く望む場合もあります。
このように、会社を経営していた場合、後継者が会社関連の財産を相続することで他の相続人との間に大きな財産の差が生じ、トラブルに発展するリスクが高まります。
生前にできるトラブル解消策
トラブルを防ぐ方法として、被相続人が生前に遺言書を作成し、遺留分や相続人間の公平性に配慮した遺産分割を計画しておくことが重要です。例えば、会社の経営とは無関係な現金や有価証券を長女に相続させることで、不公平感を軽減することができます。また、遺言書の付言事項に、会社経営に対する思いや後継者に期待する内容を記載するのも効果的です。
【ケース3】生命保険金の受取人が偏っている場合
生命保険金の受取人が特定の相続人に偏っている場合も、相続トラブルの原因となりやすいです。生命保険金は被相続人の財産ではなく、受取人の固有財産となるため、遺産分割の対象には含まれません。しかし、相続税の計算上は「みなし相続財産」として扱われ、非課税限度額を超える部分には課税されます。
たとえば、法定相続人が長男と長女で、それぞれ1/2の相続分を持っている場合、父親が長男を受取人として1,000万円の生命保険に加入していたとします。父親が亡くなり、長男がその1,000万円を受け取る一方で、長女には生命保険金がありません。この状況で法定相続分に従って遺産を分けると、結果として長男が1,000万円多く受け取ることになり、長女が不満を抱けばトラブルに発展する可能性が高くなります。
生前にできるトラブル解消策
こうしたトラブルを防ぐためには、生命保険の受取人を見直すことが効果的です。たとえば、受取人を長男と長女それぞれ500万円ずつに均等にすることで、不公平感を軽減することができます。また、生命保険の受取人を深く考えずに配偶者や長男に設定しているケースも多いので、定期的に契約内容を見直すことが大切です。これを機に、契約内容の確認をおすすめします。
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家族に関する問題による遺産相続トラブルの7つのケース
家族間での問題が原因で遺産相続トラブルが発生しやすいケースを7つご紹介します。
【ケース1】特定の相続人が遺産を独占しようとするケース
相続において、特定の相続人が遺産を独占しようとするケースがあります。かつての家督相続制度では、長男が全ての遺産を相続するのが一般的でしたが、現在の制度ではそのような特別扱いはありません。それでも、長男が全ての遺産を受け継ぐべきだと考えるケースは依然として存在し、これがトラブルの原因になることがあります。
例えば、法定相続人が長男、長女、次女の3人で、相続分が各1/3の場合、長男が「長男だから当然、全ての遺産を相続するべきだ」と主張すると、他の相続人が納得せず、トラブルに発展することがあります。
生前にできるトラブル防止策
もし、被相続人が長男に全ての遺産を相続させたいと考えているなら、生前に遺言書を作成し、他の相続人にその意向を伝えることが重要です。また、遺産を公平に分けるために、話し合いを行うことが大切です。
【ケース2】特定の相続人だけが生前贈与を受けていたケース
特定の相続人が被相続人から生前贈与を受けていた場合、他の相続人との不均衡が生じやすく、相続トラブルの原因になります。たとえば、長男が住宅購入資金として1,000万円を生前贈与されていた一方で、長女には生前贈与がなかった場合、法定相続分通りに遺産を分けると、長男が長女より多くの財産を得ることになり、不満が生じる可能性があります。
生前にできるトラブル防止策
生前贈与が行われた場合、その贈与が特別受益に該当するかどうかを家族全員で話し合っておくことが重要です。また、特別受益の持ち戻し免除について遺言書で明示しておくことも、トラブル回避の一つの方法です。
【ケース3】被相続人に前妻との間に子供がいるケース
被相続人に前妻との間に子供がいる場合、その子供にも平等に相続権があるため、相続トラブルが発生しやすいです。特に、再婚相手との間の子供と、前妻との間の子供が連絡を取り合っていない場合や疎遠になっている場合、相続手続きが煩雑になり、対立が生じやすくなります。
例えば、長男が前妻との子供であり、長女が再婚相手との間の子供である場合、相続が発生すると、長女が長男の連絡先を調べる必要があるなど、時間や手間がかかることが予想されます。さらに、立場や考え方の違いからトラブルに発展することも少なくありません。
生前にできるトラブル防止策
被相続人が生前に遺言書を作成し、それぞれの子供に相続させる財産を明確にしておくことが、トラブル防止のための有効な手段です。特に、交流が少ない相続人同士が遺産分割協議をするのは難しいため、事前に遺言で意思を示しておくことが重要です。
【ケース4】特定の相続人が被相続人の介護を行っていた場合
特定の相続人が被相続人の介護を長期間にわたり行っていた場合、相続時にトラブルが生じやすくなります。介護に大きく貢献していた相続人には「寄与分」が認められることがあり、その場合、法定相続分よりも多くの遺産を受け取ることが可能です。
ただし、寄与分が認められるためには、被相続人の財産の維持や増加に「特別な貢献」があったと認められる必要があります。一般的な介護行為だけでは寄与分が認められにくいのが現実です。また、他の相続人が寄与分を認めない場合や、寄与分の具体的な金額で対立が生じることもよくあります。
具体例
法定相続人が長男と長女の2人で、相続分が1/2ずつだったとします。長男とその妻は、被相続人である父親の介護を長期間にわたり献身的に行っていましたが、長女は離れて暮らしており、介護には関与していませんでした。相続時、長男夫婦は寄与分を主張しますが、長女は寄与分を認めず、法定相続分通りに1/2を受け取る権利があると主張。これにより、相続トラブルが発生します。
さらに、平成30年の民法改正により、相続人でない人(例:長男の妻)が特別寄与料を請求できる制度も設けられました。これにより、長男の妻が介護の貢献を理由に特別寄与料を請求することが可能になりました。
生前にできるトラブル解決策
トラブルを防ぐためには、被相続人が生前に遺言書を作成し、介護に貢献した相続人への配慮を明記することが有効です。遺言書で遺産分割の具体的な方法を指示しておくことで、相続時の争いを防ぐことができます。
遺産相続トラブルは弁護士への相談が最適です
遺産相続トラブルに直面した際は、専門家である弁護士に相談することを強くおすすめします。弁護士は法律のプロフェッショナルであり、紛争解決においても豊富な経験を持っています。税理士や司法書士も相続に関するサポートを提供しますが、紛争解決の専門家ではありません。
トラブルが発生した場合、解決策を最も的確に提案できるのは弁護士です。
ご自身の家族に似たケースは見つかりましたか?もし当てはまるケースがある場合は、生前対策を検討し、必要に応じて対応を進めましょう。また、相続に関する専門的なアドバイスを希望する場合は、弁護士に相談するのが安心です。