遺言や生前贈与、遺贈によって遺留分が侵害された場合でも、遺留分侵害額請求を行うことで、侵害された遺留分を取り戻すことが可能です。
では、遺産が不動産のみの場合、遺留分侵害額請求はどのように行われるのでしょうか。
例えば、遺産が自宅だけであり、長男がその自宅を単独で相続した場合に、次男が遺留分侵害額請求をした場合はどうなるでしょうか。
本記事では、遺産が不動産しかない場合の遺留分侵害額請求について解説します。
遺留分侵害額請求とは
概要
遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人に認められた、民法上保障された最低限の遺産の取り分です。
遺留分制度は、被相続人の意思を尊重しつつも、被相続人の近親者である一定の範囲の法定相続人の相続への期待を保護し、相続できなかった場合に生活基盤が脅かされないようにするための制度です。
遺留分は遺言や生前贈与、遺贈によって侵害することはできません。遺留分権利者は、遺留分侵害額請求を行うことで、侵害された遺留分を取り戻すことができます。
例えば、法定相続人として2人の子供がいる場合、遺言で全財産を一人に相続させるとされていたとしても、もう一人の相続人は法定相続分の半分、すなわち4分の1の遺留分を請求することができます。
法改正の影響について
2019年の民法改正により、特に不動産が遺産である場合、遺留分制度には大きな変更が加えられました。
改正前は「遺留分減殺請求」という制度がありました。権利者がこの請求を行い認められた場合、不動産の名義は「遺留分減殺を原因とする登記」によって変更され、請求者と相手方の共有持分となっていました。この請求権は動産の現物返還を求める「物権的請求権」として位置づけられていました。
しかし、改正後は「遺留分減殺請求」が「遺留分侵害額請求」という金銭請求権に変わりました。これにより、遺留分権利者は現物ではなく、遺留分が侵害された額に相当する金額を請求できるようになりました。
現行法である民法第1046条では、「遺留分権利者およびその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継した者や、相続分の指定を受けた相続人を含む)または受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができる」と規定されています。
不動産しか遺産がない場合の遺留分侵害額請求について
遺産が不動産のみである場合、遺留分侵害額請求はどのように行われるのでしょうか。
遺留分は法律で保証された最低限の取り分です。そのため、遺産が不動産のみであっても、遺留分を侵害して多くの財産を受け取った相続人は、遺留分侵害額に相当する金銭を支払う義務があります。
不動産の遺留分評価方法について
不動産の遺留分評価は、相続が発生した時点の時価で金銭評価を行います。ただし、不動産の評価方法には複数の選択肢があり、採用する方法によって評価額が異なるため、当事者間で協議が必要です。
主な評価方法として、以下の4つが挙げられます。
- 固定資産税評価額
- 路線価
- 地価公示価格
- 市場取引価格
市場取引価格や不動産鑑定士による地価公示価格は、行政が公表する固定資産税評価額や路線価よりも高額になることがあります。そのため、遺留分侵害額請求者は通常、市場価格などの高い評価を主張し、請求を受ける側は固定資産税評価額など低い評価を主張することが多いです。意見が一致しない場合は、当事者同士で合意した中間の評価額を採用することもあります。
調停や審判においては、通常、固定資産税評価額を基準としますが、当事者が修正を求めた場合は、専門家による鑑定が行われ、その結果を基に評価がなされることもあります。この場合、鑑定費用として約50万円が必要となることが一般的です。
請求の際の注意点
遺留分権利者が相手方に請求を行う際、具体的な請求額を確定する必要はありません。ただし、遺留分侵害額請求権は、相続の開始および遺留分侵害者を知った時から1年で消滅時効にかかります。そのため、請求額が特定できていなくても、早期に内容証明郵便などで請求の意思を示すことが重要です。
遺留分の支払い方法について
遺留分侵害額として支払う金額が決まった後は、具体的な支払日や支払い方法を遺留分請求者と請求された人の間で取り決める必要があります。
請求された人が不動産を手元に残したい場合、もし遺産以外に金銭やその他の自己財産があるなら、その自己財産から遺留分相当額を支払うことができます。
一方で、請求された人がその不動産に特別な執着がない、もしくは遺産以外に手元の財産がなく、遺留分を支払う資力がない場合は、不動産を売却し、その売却代金から遺留分を支払うことになります。
不動産は高額であるため、請求された側が遺留分侵害額を即座に金銭で支払うのが難しいケースも多いでしょう。そのような場合、遺留分請求者が同意すれば、支払期日の延長や分割払いなどの方法で対応することが可能です。
さらに、遺留分を請求された人は、裁判所に対して支払期限の延長を求めることができます。民法第1407条第5項では、「裁判所は、受遺者または受贈者の請求により、債務の全額または一部の支払いについて相当の期限を許与することができる」と定めており、両当事者の公平を保つための措置が用意されています。
不動産の共有にはリスクが伴う
遺留分侵害額の金銭支払いを避け、代わりに不動産を共有にする方法もありますが、不動産の共有には一般的にリスクが伴うため、おすすめできません。
まず、不動産を売却する際には、共有者全員の同意が必要です。そのため、共有者の一人が売却を希望しても、他の共有者が同意しなければ売却できません。また、不動産を所有しているだけでも、固定資産税などの税金が発生し、建物の場合は物理的な管理も必要となります。
このように、自由に処分できない不動産を所有することは、将来的に問題を引き起こす可能性があります。
さらに、共有状態を解消したい場合、共有者同士で意見がまとまらなければ、共有物分割訴訟を起こす必要が生じることもあります。これも大きなリスクの一つです。
最後に
今回は、遺産が不動産しかない場合の遺留分侵害額請求について解説しました。少しでも参考になれば幸いです。