相続人の一人が遺産分割協議に応じてくれない?ケース4選と解決方法

相続では、1人でも「NO」と言えば協議は成立しません。
「あと1人が首を縦に振ってくれさえすれば…」という声、本当に多く寄せられます。
ここでは、協議に応じない相続人がいるときの典型的なケースと、そこからどうやって前に進めるかを、実際の相談風にご紹介します。
ケース①:取得したい財産が、お互い「不動産」でかぶっている…
「私は父の土地Aをもらいたい、でも弟も“あの土地がほしい”って譲らなくて…。他の財産では釣り合わないし、ずっと平行線のままなんです」
A:不動産は“分けられない”からこそ、評価と代償金で整理します。
このようなケースでは、まず不動産それぞれの評価額をきちんと出すことがスタートラインです。
「感覚的にどちらが価値があるか」ではなく、専門業者の査定書を取り付けて客観的に数値化することで、話し合いが現実的になります。
たとえば、土地Aが1000万だとしたら、
・取得するためには、相手に1000万円払って取得することになります。(代償金)
・遺産に預金が500万あったとしたら、実際の持ち出しは500万になります。
こうした提案書を、弁護士から文書で提示すると、相手も態度を変えることがあります。
それでも話が進まない場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てます。調停では、裁判所が中立の立場で「公平な分け方」を見える化してくれます。
ケース②:親の生前に「この不動産はお前にやる」と言われていたのに、話が変わった…
「父が生前“この家はお前にやるから”って何度も言ってたんです。でも相続が始まったら、兄は“そんなの聞いてない”って言ってきて…」
A:口頭の約束は、法的には“遺言”とは認められません。
ご家族の間での会話や、親の意向があっても、それが公正証書遺言や自筆証書遺言などの形になっていなければ、法的には効力がないのが現実です。
ただし、「長年その家に住んでいた」「介護や管理を担っていた」という事実があれば、“寄与分”としてあなたの取り分が増える余地があるかもしれません。
具体的には、
- 家に住んでいた証拠(住民票・光熱費の名義)
- 介護記録や支出の履歴
- 親の口約束を録音・メモしていた記録
などを集めて、「相応の取り分がある」という主張を準備していきます。それでも他の相続人が「ゼロにする」と主張してくるようであれば、調停の場で証拠とともに伝えるのが現実的な対抗策になります。
ケース③:男家系で、姉妹にはほとんど相続させてくれない…
「“土地は男が継ぐもの”と兄に言われて、私たち姉妹には気持ち程度の預貯金だけ。そんなものなんでしょうか…?」
A:慣習より、法律が優先されます。
今でも、長男や男性が不動産を継ぐという“慣習”が残っている家庭も存在しています。ただし、法律上は男女に関係なく、法定相続分は平等です。
たとえば、相続人が兄と姉の2人であれば、どちらも2分の1ずつ。「女性だからもらえない」「嫁いだから権利はない」という主張は、完全に無効です。
こうした場面では、法定相続分に基づいた配分案を明確にし、弁護士が間に入ることで、空気を変えることができます。
ケース④:ほとんどの不動産を他の相続人が主張している
「実家の家も、畑も、全部“これは俺が管理してたから”と兄が主張してきて、こちらには現金しか残されないような配分になりそうです…」
A:主張に“根拠”があるかを見極める。ない場合は反論可能です。
たしかに「管理してきた人」が不動産取得を希望することは多いですが、それが法定相続分を大きく上回っている場合は、他の相続人が反論できます。
ここで重要なのは、
- 不動産の評価額を正確に把握する
- 管理内容に実態があったか(登記変更、修繕費の支出など)
- 代償金による調整が提示されているか
です。管理していた=全取得してよい、というわけではありません。「評価と代償金のバランスが取れていないなら、調停で再整理する」というスタンスで臨むことで、主張を是正できるケースも多くあります。
まとめ:協議に応じない相続人がいても、やれることはあります
相続人の1人が「話し合いに応じない」「無理な主張ばかりしている」と、どうしても手続きは止まってしまいます。
でも、だからといって泣き寝入りする必要はありません。
協議が進まないときは、家庭裁判所の「遺産分割調停」となりますが、ただの裁判というわけではなく、実は“ちゃんとお互いの意見整理するための場”でもあります。
また、調停では、連絡に応じてくれない相続人も、家庭裁判所からの出廷を求められるため、平行線だった遺産分割を前に進めることができるという利点もあります。
「自分の権利を正しく守りたい」「今のままだと納得できない」そう思ったときは、ぜひ一度ご相談ください。