介護に関連して、遺産相続にまつわるトラブルが多発しています。
相続の制度は非常に複雑で、手続きも煩雑なため、十分な知識がないまま進めてしまうと、家族関係に亀裂が生じる可能性があります。さらに、借金があることを知らずに大きな「負の遺産」を相続してしまうリスクも考えられます。
そこで今回は、介護分野に精通した弁護士が、介護に関連して発生しやすい相続トラブルとその防止策について詳しく解説します。
介護に関連して起こりやすい相続トラブル5選
介護が関わる場面で発生しやすい相続トラブルについて、以下の5つを見ていきましょう。
- 法定相続分が介護の貢献度に見合わない
- 贈与の不公平感
- 負の遺産の相続
- 相続問題で家族が不仲に
- 全員の合意が必要
それでは、各ポイントについて詳しく解説していきます。
1. 法定相続分が介護の貢献度に見合わない
まず一つ目は、法定相続分が介護の貢献度に見合わないという問題です。
長期間にわたり介護を担当してきた人は、他の兄弟よりも多くの遺産を受け取りたいと考えるかもしれません。しかし、民法では相続人が複数いる場合、法定相続分があらかじめ定められています。例えば、相続人が兄弟のみの場合、遺産は均等に分配されるため、「一生懸命介護をしてきたのに、相続分が見合わない」としてトラブルになるケースがよく見られます。
寄与分を主張して、他の兄弟より多くの遺産を受け取る権利を認めてもらうこともできますが、裁判所で認められる可能性は低く、望んでいたよりも少ない遺産しか得られないことが多いです。このため、介護の内容に見合った相続分が得られないことがトラブルの原因となることがあります。
2. 贈与の不公平感
次に、贈与の不公平感です。
例えば、兄弟の一人だけが生前に両親から土地の一部や住宅購入資金の援助を受けていたことが相続の時に発覚し、不公平感がトラブルに発展することがあります。
民法には「特別受益の持ち戻し」という制度があり、特定の相続人が受けた贈与を相続財産に含めて遺産を分割することが定められていますが、遺産分割協議が進まず、それまで良好だった家族関係が悪化することも少なくありません。
3. 負の遺産の相続
三つ目は、負の遺産の相続です。
多くの人は、相続する財産として預金や持ち家などのプラスの資産を想像しますが、実際には消費者金融からの借り入れなどの「負の遺産」も相続の対象となります。
相続が開始されたことを知った日から3か月以内に限定承認や相続放棄の手続きを行わなければ、多額の負債を背負うリスクがあります。相続を進める前に、すべての遺産の内容を慎重に調査することが重要です。
4. 相続問題で家族が不仲に
四つ目は、相続問題で家族が不仲になることです。
相続をめぐる争いで、以下のような理由でそれまでの良好な家族関係が悪化することがあります。
- 介護の貢献度が相続に反映されない
- 遺言書で特定の相続人が優遇されている
- 遺産分割協議が進まず、泥沼化する
これらの問題は、富裕層だけに限らず、相続財産が5,000万円以下の層でも頻繁に発生しています。
相続問題は誰にとっても他人事ではなく、仲の良かった家族が相続をきっかけに争うような状況になれば、亡くなった被相続人も浮かばれません。
5. 全員の合意が必要
最後に、全員の合意が必要であるという点です。
遺産分割協議は、原則として相続人全員の同意が必要です。一部の相続人を除いて行われた遺産分割協議は無効となる可能性があります。被相続人の兄弟やその甥・姪・孫が代襲相続を行う場合、普段から関わりが少ないために関係性が希薄で、協議が難航することもあります。
遺産分割協議の場で初めて顔を合わせることも多く、その結果、弁護士を立てて話し合いが進められるケースもよくあります。
介護における相続トラブルを防ぐための4つの対策
介護が関わる相続トラブルを避けるために、次の4つの対策を解説します。
- 遺言書で遺産の割合を明示する
- 通帳管理担当者をはっきりさせる
- 相続放棄も選択肢に入れる
- 相続内容を明確にする
それでは、それぞれの対策について詳しく見ていきましょう。
1. 遺言書で遺産の割合を明示する
まず一つ目の対策は、遺言書に遺産の割合を明確に記載してもらうことです。
特に介護を担当している場合、他の兄弟よりも多くの遺産を受け取りたいと考えることがあるでしょう。そのためには、その意向を両親に伝え、遺言書に具体的に記載してもらうことが重要です。
「介護離職」が社会問題となるほど、介護の負担は重いものです。存命中の両親に遺言書作成を依頼するのは難しいかもしれませんが、相続が曖昧なまま始まるとトラブルの原因となりかねません。円満な相続を実現するためには、しっかりと意向を伝え、遺言書を作成してもらうことが大切です。
2. 通帳管理担当者をはっきりさせる
二つ目の対策は、通帳管理の担当者を明確にすることです。
実際に介護が始まると、介護を担当する配偶者や兄弟が通帳からの現金の入出金や介護費用、生活費の管理を行うことになります。介護には多くの費用がかかるため、他の相続人に無断で被相続人の財産を使用するとトラブルになることがあります。
介護費用専用の通帳を作成し、資金の動きを透明化すること、さらにレシートや領収書を保存して金銭の使途を記録しておくことが、トラブルを未然に防ぐポイントです。
3. 相続放棄も選択肢に入れる
三つ目の対策は、相続放棄を検討することです。
相続放棄とは、被相続人の財産を一切相続しない(放棄する)ことを指します。負債が資産を上回る場合、相続を放棄することが有益な選択肢です。
また、財産の範囲内でのみ相続を行う「限定承認」もありますが、これは相続人全員の同意が必要で、手続きが複雑です。相続放棄と限定承認のどちらの場合も、相続が開始されたことを知った日から3か月以内に手続きを行う必要があります。
さらに、被相続人の財産の一部を無断で使用してしまうと、法的に単純承認とみなされ、相続放棄などの選択肢がなくなることもあります。トラブルを避けるためには、相続が始まった時点で迅速に弁護士に相談することが重要です。
4. 相続内容を明確にする
最後に、相続内容を明確にすることです。
相続トラブルを避けるためには、被相続人の財産内容を明確に把握する必要があります。相続には、銀行預金や土地、住宅、有価証券といった資産だけでなく、住宅ローンや借入れなどの「負の遺産」も含まれます。そのため、相続によって多額の負債を引き受ける可能性もあります。
また、相続人の中には特定の財産(例えば住み慣れた自宅や骨董品など)を希望する場合もあり、これが原因でトラブルが生じることもあります。スムーズな相続手続きを進めるためにも、弁護士などの専門家に依頼して相続財産を調査し、相続内容を明確にすることをおすすめします。
介護相続トラブルで弁護士ができること
介護が関わる相続トラブルを防ぎ、解決するためには、弁護士に相談することも重要な選択肢です。ここでは、介護相続トラブルにおいて弁護士が提供できるサポートについてご説明します。
- 兄弟間の争いの解決
- 遺産の全容の把握
- 相続手続きの対応
それでは、それぞれのサポートについて詳しく見ていきましょう。
1. 兄弟間の争いの解決
弁護士ができる最初のサポートは、兄弟間の争いを解決することです。
弁護士は、プロの法律家として相続に関する相談や紛争解決をサポートします。遺産相続は遺言書に従って行うことも、相続人同士の協議で行うことも可能ですが、相続財産について話がまとまらずにトラブルになるケースも多くあります。
相続争いが発生していない場合、書類作成や登記などの手続きを行政書士や司法書士に依頼することもできますが、協議が進まない場合には、弁護士の立ち会いのもとで冷静かつ論理的な話し合いを行うことが望ましいです。
2. 遺産の全容の把握
弁護士が提供できる二つ目のサポートは、遺産の全容を明確に把握することです。
相続手続きは、被相続人の財産全体を正確に把握することから始まります。弁護士は、被相続人の財産調査を行い、以下のような財産を特定することが可能です。
- 不動産
- 預貯金
- 有価証券
- 貴金属
- 仮想通貨
- 骨董品
法的根拠に基づいて遺産の主張を行うことで、受け取るべき財産を適切に確保することができます。また、被相続人が生前に多額の負債を残していた場合には、相続放棄や限定承認などの手続きを迅速に検討する必要があり、そのためにも弁護士による相続財産調査が重要です。
3. 相続手続きの対応
弁護士が提供できる三つ目のサポートは、相続手続きの対応です。
相続が始まると、3か月以内に特別な手続きを行わない限り、単純承認とみなされます。相続放棄や限定承認、遺留分減殺請求などを行う際には、複雑な手続きが伴う場合があります。
また、相続人間の関係が良くない場合や、代襲相続などで誰が相続人に該当するか不明な場合、自分たちだけで協議を進めようとしても困難なことがあります。このような場合、相続そのものが無効となるリスクも考えられます。
弁護士は、こうした複雑な相続案件や手続きを迅速かつ確実に進めることができるため、早めに相談することをお勧めします。
介護相続トラブルには弁護士相談が必要
今回は、介護に関連する相続トラブルの実態や防止策について、専門弁護士の視点から解説しました。
介護が原因で発生する相続トラブルは他人事ではなく、家族関係に深刻な影響を与え、大きなトラブルに発展することも珍しくありません。
被相続人の逝去後に慌てることなくスムーズに相続手続きを進めるためにも、遺言書の作成サポートや相続財産調査などを弁護士に相談することをぜひご検討ください。