故人(被相続人)が残した財産をどのように分配するかについて相続人同士が話し合う中で、意見が対立し、裁判にまで発展するケースは決して珍しくありません。特に土地や家などの不動産は、平等に分割することが難しいため、相続方法に関する合意を得るのが困難な場合が多いです。さらに、相続には多くの法律や税金が絡んでくるため、専門家の助けがなければ解決が難しいことも少なくありません。不動産に関連した相続トラブルの種類を理解し、あらかじめ対策を講じることが重要です。
本記事では、土地の相続トラブルが発生する主な原因や、代表的な遺産分割方法、相続の進め方について詳しく解説します。
よくある12通りの土地の相続トラブル例
土地の相続トラブルが発生する主な理由として、以下の4つが挙げられます。これらのポイントを事前に理解し、ご自身の状況に当てはまるものがないか確認しておきましょう。
不動産相続トラブル① 不動産の取得者をめぐる争い
不動産相続で「誰が不動産を取得するか」で争うことは、よくあるトラブルの一つです。次のようなケースに該当する場合、事前に対策を検討しておくことが重要です。
【トラブルが起こりやすいケース】
- 相続人が複数いる
- 遺産がほぼ不動産のみ
- 高価な不動産(立地や環境が良く、評価額が高い)である
これらのケースでどのようなトラブルが発生しやすいのか、その対策や解決方法を見ていきましょう。
トラブルの内容
亡くなった人の遺産が不動産だけ、または価値の高い不動産である場合、その不動産の相続を巡って争いが起きやすくなります。現金のように均等に分けることが難しいため、相続人全員が納得できる方法を見つけるのは簡単ではありません。
具体例
- 亡くなった人: 父
- 相続人: 長男・次男
- 遺産: 自宅(評価額6,000万円)、現金2,000万円
長男も次男も「自宅を取得したい」と主張し、遺産分割協議が始まりました。自宅は駅に近く、リフォームしたばかりの高価な物件です。お互いに譲らず、話し合いがもめて関係が悪化。遺産分割協議が進まなくなってしまいました。
このように、相続人同士の関係性が悪化するリスクがあります。
対策方法:遺言を残してもらう
不動産を所有している人には、誰にどの不動産を譲るのかを遺言に明記してもらいましょう。遺言があれば、相続人はその内容に従うことが基本となるため、不動産を巡る争いを避けることができます。
ただし、単に「物件Aを〇〇に譲る」とだけ書かれた遺言では、他の相続人の不満が生じる可能性があります。生命保険や退職金などを活用して、他の相続人にも財産を残すことを検討するのが良いでしょう。
解決法①4つの分割方法で話し合う
不動産を分ける方法には4つの選択肢があります。相続人全員でこれらの方法を検討し、解決策を見つけましょう。特にトラブルを避けやすい方法として、「現物分割」または「換価分割」を検討するのがおすすめです。
【4つの不動産分割方法】
方法 | おすすめ | 特徴 | 例 |
---|---|---|---|
現物分割 | 〇 | 財産を現物のまま分ける方法。複数の財産がある場合に有効。分筆できる条件を満たす土地は少ない。 | 長男が物件A、次男が物件Bを相続。土地を分筆して200㎡ずつ分ける。 |
共有分割 | 1つの不動産を相続人全員で共有。新たなトラブルが生じやすい。 | 自宅を長男・次男・三男の共有名義にする。 | |
代償分割 | 相続した人が他の相続人に代償金を支払う方法。資金力がある場合に有効。 | 長男が自宅を相続し、次男と三男に代償金を支払う。 | |
換価分割 | 〇 | 不動産を売却し、売却金を相続人で分ける。 | 自宅を売却して売却金を平等に分ける。 |
解決法②遺産分割調停を申し立てる
話し合いで解決できない場合、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てることができます。調停は中立的な調停委員が間に入り、相続人の意見を調整しながら解決を図る手続きです。
もし調停でも合意できなければ「審判」に進みます。審判では法律に基づいて遺産分割内容が決定され、相続人はその内容に従う義務があります。これにより最終的には問題が解決されます。
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不動産相続トラブル② 誰も相続したくない不動産がある
遺産の中に、誰も相続したくない不動産が含まれているケースも珍しくありません。以下のような場合には、事前に対策を考えておくことが重要です。
【トラブルが起こりやすいケース】
- 活用も売却も難しい不動産が含まれている(地形が悪い、立地や環境が悪い、など)
このようなケースで、どのようなトラブルが起こるのか、その対策や解決方法について説明します。
トラブルの内容
田舎にある古い家屋や山林、農地などは需要が少なく、活用も売却も難しいことが多いです。さらに、所有しているだけで固定資産税や維持費がかかり、相続人にとっては負担になります。
このような不動産は、相続人同士で押し付け合い、遺産分割協議が進まないことがよくあります。
具体例
- 亡くなった人: 母(父はすでに他界)
- 相続人: 長女、次女
- 遺産: 自宅、土地、現金
母の財産調査の中で、地方の土地の所有権が発覚。しかし、その土地は傾斜が多く、活用が難しいため、長女も次女も相続したがりません。結果として、遺産分割協議が進まず、話し合いが続く中でも固定資産税と維持費が発生し続ける状況です。
解決法①不動産業者に相談する
「売れない」「使い道がない」と思われる不動産でも、不動産の専門家に相談することで、解決の糸口が見つかることがあります。たとえば、田舎の土地でも資材置き場や太陽光発電所用の土地として活用できる可能性があります。
解決法②譲渡や寄付をする
一部の不動産は、自治体が寄付を受け付けてくれる場合がありますので、相談してみるとよいでしょう。また、2023年4月から始まった「相続土地国庫帰属制度」を利用することも可能です。この制度は、相続した不要な土地を国に返すことができるものです。
ただし、この制度を利用するためには厳しい条件があり、費用も数十万円以上かかることが多いです(費用は土地の面積などによって異なります)。詳細については、法務省のホームページを参照してください。
解決法③相続放棄をする
相続放棄をすれば、不動産を含む全ての遺産を相続する権利を放棄することができます。ただし、相続放棄を選ぶと他の遺産(現金や有価証券など)も一切相続できなくなるため、慎重に検討する必要があります。相続放棄の期限は相続開始から3ヶ月以内ですので、早めに決断しましょう。
これらの方法を検討し、自分に合った解決策を見つけることが大切です。
不動産相続トラブル③ 空き家トラブルを引き起こす
亡くなった人が住んでいた家をそのまま放置すると、空き家によるトラブルを引き起こす可能性があります。以下のような場合には、事前に対策を考えておくことが重要です。
【トラブルが起こりやすいケース】
- 相続した家に誰も住まない場合
それでは、このトラブルの内容と対策、解決方法を見ていきましょう。
トラブルの内容
亡くなった人の自宅を誰も使用しないと、その家は空き家になります。空き家にしておくと、次のようなリスクが発生する可能性があります。
- 湿気が溜まりやすく、建物の劣化が早まる
- 不審者の侵入やゴミの不法投棄、その他の悪用のリスク
- 建物の劣化や治安の悪化が原因で、近隣住民に迷惑をかける
- 老朽化が進むと、市町村から「特定空き家」に指定され、固定資産税が最大6倍に増額
- 老朽化により、地震や台風などの天災で倒壊し、近隣に被害を与え、損害賠償を負う可能性
空き家を放置していると、このような様々な問題を引き起こす恐れがあります。
具体例
- 亡くなった人: 父
- 相続人: 母、長男、次男
- 遺産: 自宅、現金
父が亡くなり、母は高齢者住宅に入居し、自宅は空き家になりました。次男は「売却しよう」と提案しましたが、母と長男は「思い出の詰まった家を壊したくない」と反対し、自宅はそのまま残されました。しかし、長男も次男も遠方に住んでいるため、ほとんど管理に足を運びませんでした。
数年後、親戚に家を貸すことになり片付けに行ったところ、悪臭やネズミの被害、カビの発生などが発覚し、家の修繕費用に400万円がかかりました。
このように、空き家を放置すると後で大きな手間や費用が発生することがあります。
解決法は早めに売却するか賃貸に出す
空き家をそのまま残しておくと、固定資産税や修繕費などの費用がかかり、トラブルのリスクも増えます。これを避けるためには、できるだけ早めに売却するか、賃貸に出して活用するようにしましょう。
空き家を適切に処理することで、トラブルの発生を防ぎ、余分な費用や労力を削減できます。
不動産相続トラブル④ 相続税が支払えない
不動産を含む相続では、相続税が支払えないという状況に陥ることがあります。次のようなケースに該当する場合は、事前に対策を考えておくことが大切です。
【トラブルが起こりやすいケース】
- 遺産の総額が基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の人数)を超える場合
- 遺産が不動産ばかりで現金がほとんどない場合
それでは、このトラブルの内容と対策、解決方法を見ていきましょう。
トラブルの内容
相続税は原則として現金で納める必要があります。しかし、遺産の多くが不動産で占められている場合、相続税の支払いに必要な現金が不足することがあります。
たとえば、遺産総額が数億円に上ると、相続税だけでも1,000万円を超えることがあります。このような高額な相続税を、相続が始まってからわずか10ヶ月の申告期限内に用意するのは非常に困難です。
具体例
- 亡くなった人: 母(父はすでに他界)
- 相続人: 長男
- 遺産: 自宅、賃貸アパート
母が亡くなり、自宅と賃貸アパートが残されました。長男が相続手続きを進める中で、相続税が800万円かかることが判明しました。しかし、母の現金は介護費用などに使われており、ほとんど残っていません。親戚にお金を借りようとしましたが、断られてしまい、相続税を支払うための資金が不足してしまいました。
このように、遺産に現金がない場合、相続税の納付が困難になり、申告期限内に納税できないと無申告加算税や延滞税が課される可能性があります。
解決法①延納制度を利用する
相続税の支払いが期限までに困難な場合、事前に申請すれば、納付期限を延長して分割で支払うことができます。ただし、延納には厳しい条件があり、延納期間中は利子税がかかります。
解決法②物納制度を利用する
延納制度でも支払いが難しい場合、相続した不動産を現金の代わりに納めることができる「物納制度」を利用することも可能です。ただし、物納が認められるための条件も限られています。
詳細については、国税庁のホームページをご確認ください。
解決法③相続した不動産を売却する
どうしても残しておきたい不動産でなければ、売却してその資金で相続税を納付する方法もあります。これにより、現金が確保でき、相続税の問題を解決できます。
不動産相続トラブル⑤ 居住権を巡ってもめる
遺産である自宅や土地に相続人が住んでいた場合、居住権を巡ってトラブルが発生することがあります。次のような場合には、事前に対策を考えておくことが重要です。
【トラブルが起こりやすいケース】
- 相続人が複数人いる
- 遺産がほぼ不動産しかない
- 亡くなった人名義の自宅で、亡くなった人と相続人の一人が同居していた
- 亡くなった人名義の家で、複数の相続人が同居している
- 亡くなった人名義の土地に、相続人の一人が家を建てている
それでは、このトラブルの内容と対策、解決方法を見ていきましょう。
トラブルの内容
相続によって「住んでいる人」と「所有権を持っている人」が別々になると、家の権利を巡って争いが発生しやすくなります。具体的な事例を3つ紹介します。
【①亡くなった人と相続人の一人が同居していた事例】
- 亡くなった人: 母(父はすでに他界)
- 相続人: 長男・次男
- 遺産: 自宅のみ(評価額2,000万円)
長男は母と同居していたため、母が亡くなった後もその家に住み続けるつもりでした。しかし、次男は「この家は半分は自分の権利だから、勝手に住み続けるのはおかしい」と反対し、売却して売却金を分けることを要求しました。
【②複数の相続人が一緒に暮らしていた事例】
- 亡くなった人: 母(父とは離婚)
- 相続人: 長女・次女
- 遺産: 自宅のみ(評価額2,000万円)
母と長女、次女が一緒に暮らしていましたが、母の死後、家は共有名義のままでした。後に長女の結婚が決まり、どちらが家に残るかで争いになりました。
【③親名義の土地に相続人の一人が家を建てていた事例】
- 亡くなった人: 父
- 相続人: 長男・長女
- 遺産: 土地(評価額1,000万円)と少額の現金
長男は父の土地に自分名義で家を建て、1,200万円の援助を受けていました。父が亡くなり、生前贈与があったため、遺産は全て長女が相続することに。長女は長男に「自分の土地に住んでいるのだから賃料を払ってほしい」と要求しましたが、長男には賃料を支払う余裕がなく、争いになりました。
このように、最悪の場合「住んでいる人」が家を追い出されることがあり、一方で「所有権を持っている人」も無償で他人が住むのを納得できないことが原因でトラブルが発生します。
【配偶者には「配偶者居住権」が認められている】
もし、亡くなった人の家に配偶者が同居していた場合、他の相続人が家の所有権を相続しても、配偶者は無償で亡くなるまでその家に住む権利があります(民法1028条、1030条)。
対策①遺言書を作成し、不動産を取得しない相続人への配慮をする
不動産を取得する相続人を遺言書で指定しておくことが重要です。これにより、誰が不動産を取得するかについて争いになるリスクを減らせます。
また、不動産を取得しない相続人に対する配慮として、預貯金や生命保険金の受取人を不動産を取得しない相続人に指定するなどの対策を行うと良いでしょう。もし不動産しかない場合でも、遺留分に相当する金銭についても考慮する必要があります。
対策②使用貸借契約を結んでおく
遺言書が作成できない場合、住み続けるために使用収益の目的や期間を定めた「使用貸借契約」を結んでおくことを検討しましょう。これにより、相続した人が住んでいる人に対して立ち退きを求めることが難しくなります。
使用貸借契約とは、無償で物件を使用させる契約であり、契約者が亡くなった後も契約は有効です。ただし、契約期間が終了したり、借主が亡くなると契約は終了しますので、期間を明確に定めることが重要です。
解決法①話し合いで決まらなければ遺産分割調停を申し立てる
当人同士の話し合いで解決できない場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てる方法があります。調停委員が中立の立場で双方の意見を聞きながら解決を図ります。これでも合意できない場合は、裁判に進むことになります。
不動産相続トラブル⑥ 不動産の名義変更がされていなかった
相続が始まってみると、不動産の名義変更がされていないことが判明するケースがあります。このようなトラブルは誰にでも起こり得るため、事前にしっかり対策をしておくことが大切です。
それでは、このトラブルの内容と対策、解決方法について説明します。
トラブルの内容
相続が始まり、登記事項証明書などの書類を取り寄せると、不動産の名義人が亡くなった人ではなく、さらにその前の所有者のままであることが発覚することがあります。
これは、亡くなった人が不動産を相続した際に名義変更を行っていなかったことが原因です。
具体例
- 亡くなった人: 父
- 相続人: 母・長男
- 遺産: 自宅、現金
父が亡くなり、自宅の名義を母に変更することになりました。不動産の書類を取り寄せると、家が建っている土地の名義が祖父のままであることが判明しました。祖父が亡くなった際に、土地の名義を父に変更していなかったのです。
法務局に問い合わせたところ、名義を祖父から直接母に変更することはできず、まずは祖父から父への名義変更を行う必要があると分かりました。そのためには、祖父の相続人である伯母にも連絡を取らなければならないが、伯母もすでに亡くなっており、その相続人であるいとこの連絡先も不明です。
このように、不動産の名義変更を行うには、一つ前の相続の名義変更を先に済ませる必要がありますが、相続人と連絡が取れなかったり、同意が得られなかったりして、手続きが滞ることがよくあります。これを放置しておくと、相続人が増えていき、ますます解決が難しくなる可能性があります。
解決方法①相続が発生した順に名義変更を進める
トラブルが発生した場合、まずは最初に発生した相続(一次相続)の名義変更を完了する必要があります。一次相続の相続人全員と連絡を取り、遺産分割協議書を作成し、その後、次の相続の名義変更を進めます。
もし連絡が取れない相続人がいる場合、専門家に依頼して相続人の所在を調査したり、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てるなどの方法が有効です。これにより、手続きを円滑に進めることができます。
詳しい進め方については、専門の弁護士や司法書士に相談することをお勧めします。
不動産相続トラブル⑦【現物分割/代償分割】不動産の評価額でもめる
不動産の分割方法が現物分割または代償分割である場合、不動産の評価額が原因で相続人同士がもめることがあります。次のようなケースに該当する場合、事前に対策を考えておくことが重要です。
【トラブルが起こりやすいケース】
- 相続人が複数いる
- 不動産を現物分割(財産をそのまま分ける)または代償分割(財産を相続した人が他の相続人に代償金を支払う)で遺産分割する場合
それでは、このトラブルの内容と対策、解決方法について説明します。
トラブルの内容
不動産の評価方法は以下の4つがあります。
- 実勢価格(取引価格)
- 地価公示価格
- 路線価
- 固定資産税評価額
これらの評価方法によって評価額が異なるため、どの方法を採用するかで相続人同士がもめることがあります。
代償分割の例
不動産を相続する人にとっては、評価額が低い方が支払う代償金の額が少なくて済みます。一方、不動産を相続しない人にとっては、評価額が高い方が代償金を多くもらえるため、意見が対立しやすいです。
具体例
- 亡くなった人: 母(父はすでに他界)
- 相続人: 長女・次女
- 遺産: 自宅のみ(評価額不明)
母が亡くなり、母と同居していた長女が自宅を相続し、長女が次女に代償金を支払うことで話がまとまりました。しかし、代償金の金額を決める段階で、意見が分かれました。
- 長女の主張: 「固定資産税評価額4,000万円で代償分割をしたい。相続税は固定資産税評価額をもとに算出するから、遺産分割も固定資産税評価額を用いるべき」
- 次女の主張: 「遺産分割協議では一般的に実勢価格を用いられるべき。実勢価格は4,800万円だと不動産業者が見積もった」
このような状況で口論が発展し、話し合いが続けられない状態になってしまいました。評価額の違いが原因で遺産分割協議が成立せず、相続が進まないケースもあります。
解決法:話し合いで決まらなければ遺産分割調停を申し立てる
当人同士の話し合いで合意に達しない場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てるのが一般的です。調停でも話がまとまらない場合、不動産鑑定士に依頼して鑑定評価額を用いることが解決策として考えられます。
この方法により、公正な評価に基づいて相続問題を解決することが可能です。
不動産相続トラブル⑨【共有分割】不動産活用方法で意見が割れる
不動産を共有名義にした場合、不動産の活用方法について相続人同士で意見が分かれ、トラブルになることがあります。以下のようなケースに該当する場合、事前に対策を考えておくことが重要です。
【トラブルが起こりやすいケース】
- 相続人が複数いる
- 共有分割(共有名義で相続する)にした場合
それでは、このトラブルの内容と対策、解決方法を見ていきましょう。
トラブルの内容
不動産を共有名義にした場合、売却や活用のためには名義人全員の同意が必要です。誰か一人が不動産を勝手に売却したり活用したりすることはできません(民法251条)。そのため、相続人の意見が合わないと、不動産が有効に活用されず、放置されることになります。
具体例
- 亡くなった人: 父
- 相続人: 母・長女・次女
- 遺産: 土地
父の相続の際、遺産は土地だけだったため、相続人全員が公平を図るために母・長女・次女の共有名義で相続しました。土地の利便性が良かったので、次女は「駐車場にして経営しよう」と提案しましたが、母と長女は反対しました。「駐車場を作るにはお金がかかるし、集客の見込みも分からない。経営を始めたら管理もしなければならない」と主張しました。一方、次女は「土地を持ち続けるだけでは維持費がかかるだけ。活用しないなら売却したい」と反論し、意見の対立が生じました。このような状況が続くと、相続人同士の関係性が悪化する可能性があります。
不動産相続トラブル⑩【共有分割】相続人が増えて収拾がつかなくなる
不動産を共有分割にした場合、時間が経つにつれて相続人が増え、トラブルが収拾がつかなくなるおそれがあります。以下のようなケースに該当する場合、事前に対策を考えておくことが重要です。
【トラブルが起こりやすいケース】
- 相続人が複数いる
- 共有分割(共有名義で相続する)にした場合
それでは、このトラブルの内容と対策、解決方法を見ていきましょう。
トラブルの内容
不動産を共有名義にしたままにしておくと、共有名義人の一人が亡くなるたびにその相続人が新たに共有名義人として加わることになります。共有名義の場合、名義人全員の同意がなければ不動産の売却や活用ができません。相続人が増えるほど、意見をまとめることが難しくなります。
具体例
- 亡くなった人: 母(父はすでに他界)
- 相続人: 長男・次男・三男
- 遺産: 自宅、賃貸アパート、現金
母が亡くなった際、賃貸アパートを誰が相続するかでもめましたが、最終的に3人で共有名義にすることで合意しました。5年後、賃貸アパートを売却しようと相談している矢先、長男と次男が立て続けに亡くなりました。その結果、5人の親族が新たに相続人として加わりましたが、売却に反対する者が出てきたため、結局売却することができなくなりました。
このように、共有名義人の一人が亡くなると新たな相続人が加わり、共有者が増えることで不動産の活用や売却がさらに難しくなります。最終的には、共有名義人の数がねずみ算式に増えてしまい、収拾がつかない事態に発展する可能性があります。
自分が亡くなった後に、自分の相続人にも大きな負担をかけることになるかもしれません。
対策&解決法:なるべく早めに売却か単独名義にする
共有分割にした場合は、なるべく早めに不動産を売却するか、単独名義に変更するように努めましょう。共有分割はあくまで一時的な対策と考え、速やかに最終的な解決策を取ることが大切です。
もしすでにトラブルに発展している場合には、「解決法②:共有物分割請求訴訟を提起する」で解説したように、訴訟での解決を検討することも可能です。裁判を通じて、不動産の売却や分割方法を決めることができる場合があります。
対策:なるべく早めに単独名義にする
共有分割にした場合、なるべく早く単独名義に変更することを検討しましょう。共有分割はあくまで一時的な対策と考え、できるだけ早期に合意を図り、単独所有者を決めることが重要です。
解決法①:持分のみを売却する
共有名義の不動産を全て売却することは難しい場合でも、自分の持分だけを売却することは可能です。相続人間で合意が得られず、共有状態が続くことに不満がある場合、自分の持分を第三者に売却することで解決を図る方法があります。
解決法②:共有物分割請求訴訟を提起する
相続人同士の話し合いで解決が見込めない場合、共有物分割請求調停の申し立てや訴訟を提起する方法があります。調停は、話し合いでの解決が難しい場合には現実的ではなく、実際には訴訟で解決を図ることが多いです。
訴訟では、次のような分割方法が採用されることがあります。
- 価格賠償: 不動産を一人の相続人に取得させる代わりに、他の相続人に相応の金銭を支払う方法
- 現物分割: 不動産を物理的に分けて、それぞれの相続人に分配する方法
- 換価分割: 不動産を売却して、その売却代金を相続人間で分ける方法
これらの方法により、共有状態の解消や適正な不動産活用の実現を目指します。