遺産を相続させたい相手が親族ではなく「他人」の場合、法律的な手続きを正確に行うことが必要です。日本の相続制度では、法定相続人が優先されるため、他人に遺産を渡すには遺言書の作成が不可欠です。しかし、遺言の内容が不十分だったり、法的に問題があると、遺志が実現されないリスクもあります。また、遺産分割で他の相続人との争いが起きる可能性も考慮しなければなりません。本記事では、他人に遺産を渡すための具体的な方法や注意点を詳しく解説します。公正証書遺言の活用や遺留分対策、さらには事前にトラブルを防ぐためのポイントも紹介。大切な遺志を確実に実現するための参考にしてください。
遺言書で他人に財産を譲ることは可能?
遺言書を活用すれば、他人に財産を譲ることが可能です。遺言書に「遺贈」として財産を渡す内容を明記することで、血縁関係のない個人や、非営利団体、自治体、お世話になった介護施設などにも財産を残すことができます。ただし、適切に作成されていない遺言書では意図が実現されない場合もあるため、法的な知識が重要です。
「遺贈」と「相続」の違い
遺贈と相続は異なる概念です。
- 相続
相続とは、法律で定められた相続人が被相続人(亡くなった方)の財産を引き継ぐことです。 - 遺贈
遺贈とは、被相続人が遺言書で指定した個人や団体に財産を譲ることを指します。相続人でない者にも財産を渡せる点が特徴で、受け取る側を「受遺者」と呼びます。
遺贈の種類
遺贈には主に以下の2種類があります。
包括遺贈
財産の全部または一部を包括的に遺贈する方法です。例としては、以下のように記載します。
- 「私は私の財産のすべてを〇〇に遺贈します」
- 「私は私の財産の2分の1を〇〇に遺贈します」
特定遺贈
特定の財産を指定して遺贈する方法です。
- 「神奈川県横浜市〇〇区××の土地を遺贈します」
他人に遺贈すると相続税はどうなる?
遺言書で法定相続人以外の方に財産を遺贈する場合、相続税はどうなるのでしょうか?結論から言うと、法定相続人以外の受遺者にも相続税が発生します。その仕組みと注意点を詳しく解説します。
法定相続人以外でも相続税は発生する
法定相続人以外の方が遺贈により財産を取得する場合も、相続税の対象になります。申告期限は法定相続人と同じく「被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内」です。この期限を過ぎるとペナルティが発生するため注意が必要です。
遺贈時の相続税計算の流れ
相続税計算の基本的な手順は以下の通りです。
課税価格の計算
相続税の対象となる遺産を特定し、課税価格を計算します。財産の総額から債務などを控除し、以下のポイントを考慮します。
- みなし相続財産:死亡保険金や退職金など、相続財産ではないが課税対象になるもの。
- 死亡前3年以内の贈与:2024年の法改正により、加算期間が段階的に7年に延長されています。
- 相続時精算課税の財産:相続時精算課税制度を利用した贈与財産は課税対象に加算されます。
課税遺産総額の算出
課税価格から基礎控除額を差し引き、課税遺産総額を算出します。
- 基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。ただし、法定相続人以外の受遺者はこの計算には含まれません。
相続税総額と各受遺者の税額計算
- 課税遺産総額を基に、法定相続分に従って各相続人の取得金額を仮定し、それに応じた税率を適用して相続税総額を計算します。
- 次に、相続税総額を受遺者ごとに配分し、個別の税額を計算します。
申告と納付
被相続人の死亡を知った翌日から10か月以内に相続税を申告・納付します。
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他人に遺贈する際の注意点
他人に財産を遺贈する際、相続税だけでなく以下の点にも留意が必要です。
- 相続税の負担が大きい:法定相続人に比べて、他人への遺贈では税率が高くなる傾向があります。
- トラブルの回避:法定相続人の遺留分を侵害しないよう、遺言内容を十分に検討する必要があります。
- 財産の処分状況:遺贈対象の財産が生前に売却されている場合、遺贈は無効になります。
遺贈は大切な意思を実現する方法ですが、法的なリスクを考慮して適切に進めることが重要です。
他人に財産を遺贈する際の注意点
法定相続人以外の他人に財産を遺贈する場合、以下の注意点を押さえておく必要があります。
基礎控除や非課税枠が適用されない
相続税の基礎控除や、死亡保険金・死亡退職金の非課税枠は法定相続人の人数に基づいて計算されます。しかし、他人である受遺者はこれに含まれないため、控除や非課税枠の恩恵を受けられません。
- 基礎控除額:「3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)」
- 非課税枠:「500万円 × 法定相続人の数」
例えば、法定相続人がいない場合、基礎控除額は3,000万円となり、非課税枠も適用されません。
特定遺贈では借金や葬儀費用の控除不可
特定遺贈の場合、遺贈者の借金や葬儀費用を遺産から控除することはできません。これが可能なのは包括遺贈の場合のみです。
特定の税控除が適用されない
未成年者控除や障害者控除、相次相続控除などは、法定相続人に限定されます。他人への遺贈には適用されないため、税負担が重くなる場合があります。
相続税が2割増しになる
他人に財産を遺贈する場合、相続税が20%加算されます。このルールは、孫や兄弟姉妹を受遺者とする場合も同様です(ただし、大衆養子としての孫は除く)。そのため、高額な相続税を負担する可能性があります。
遺言書作成時に押さえておきたい3つのポイント
他人に財産を遺贈するために遺言書を作成する際、次のポイントに注意してください。
受遺者が放棄する可能性がある
受遺者が遺贈された財産の受け取りを放棄する場合があります。
- 特定遺贈:相続人や遺言執行者に放棄を伝えるだけで可能。
- 包括遺贈:家庭裁判所に放棄の申述を行う必要がある(遺贈を知った日から3か月以内)。
受遺者が放棄した財産は、最終的に法定相続人が相続することになります。
遺留分トラブルのリスク
遺贈財産が遺留分を侵害すると、受遺者が相続人から「遺留分侵害額請求」を受ける可能性があります。遺留分を考慮せずに遺言書を作成すると、相続人と受遺者の間で争いが生じることがあります。
相続税や不動産取得税の支払いリスク
受遺者が遺言書の存在を知らない場合、高額な財産を遺贈されても相続税を払えない可能性があります。不動産を遺贈された場合、現金が不足して融資を受けたり、遺贈を放棄したりする必要があるかもしれません。また、不動産を特定遺贈で取得した場合、不動産取得税が別途課税されます。
他人に財産を遺贈する際の配慮
他人に遺贈する際は、相続税負担や受遺者の経済状況を十分に考慮することが重要です。遺言書の内容や財産分配に注意を払い、トラブルやリスクを未然に防ぐ準備を進めましょう。
本記事では、遺言書を活用して他人に財産を渡せる「遺贈」について、その仕組みや注意点を詳しく解説しました。
遺贈は相続人以外にも財産を残すことができる便利な方法ですが、遺留分の侵害や遺贈先による家族間のトラブルにつながる可能性があります。そのため、遺言書を作成する際には、法律の専門家に相談しながら、税務面も含めて慎重に計画を立てることが重要です。
特に、不動産を含む遺産や高額な財産を遺贈する場合は、税金対策を含めた適切な遺言書作成のために、弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。