遺産分割で預貯金を分ける手順を弁護士が解説

相続財産の中に預貯金が含まれている場合、「相続人でどう分けたら良いか?」と悩む方は多いでしょう。

結論から言えば、預貯金の遺産分割は以下の2つのステップで解決できます。

まず、法定相続分(法律で定められた遺産の分け方)を基にして、相続人がそれぞれどれだけの預貯金を受け取るか「取り分」を決めます。

取り分が決まったら、次に「どのように分割するか」を決めます。解約して分ける方法、名義変更する方法、他の資産と調整する方法など、ケースに応じて最適な方法を検討しましょう。

この記事では、初めて遺産分割をする方でも分かるように、預貯金の分け方を詳しく解説します。

また、銀行に提出する遺産分割協議書の雛型(3パターン)もご用意しました。文面をコピーして調整すれば、そのまま銀行に提出可能です。

「相続なんて難しくてわからない!」という方でも理解しやすいよう、平易な言葉で説明していますので、ぜひ最後までお読みください。

目次

【分け方を考える上で】預貯金は遺産分割後にしか払い戻しができない

遺産分割における預貯金の分け方を説明する前に、まず理解しておくべき基本的なポイントがあります。それは、預貯金は原則として遺産分割後にしか払い戻しができないということです。

たとえ相続の権利があったとしても、相続人全員の合意がなければ預貯金の払い戻しはできません。「預貯金も遺産の一部だから当たり前」と思われるかもしれませんが、実は以前は「預貯金は遺産分割の対象外」とされており、法定相続分の範囲内であれば単独で払い戻しが可能でした。

例えば、故人の預貯金が900万円あり、法定相続人が子ども3人(法定相続分はそれぞれ3分の1)の場合、遺産分割をしなくても各自が300万円を金融機関の窓口で受け取ることができました。

しかし、2016年12月19日の最高裁判所の決定により、預貯金も遺産分割の対象となりました。これにより、相続人全員の合意がなければ、法定相続分の範囲内であっても払い戻しはできなくなりました。

共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。
引用:裁判所/遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件 平成28年12月19日 大法廷決定

この決定により、相続人全員の合意が必要となり、相続による払い戻しや口座の名義変更を行う際には、金融機関が用意する所定の文書や相続人全員の実印が押された遺産分割協議書などが必要となりました。

例えば、遺産が預貯金だけであり、相続人間で特に争いがない場合は、相続人全員の同意書があれば預金の解約が可能です。その後、解約したお金を話し合いで分配すれば、遺産分割協議書の作成は不要です。

また、遺産分割前に相続預金の仮払い制度を利用すれば、葬儀費用や生活費が不足する場合に150万円までは払い戻しが可能です。

ステップ1:預貯金の配分(取り分)を決める

ここからは、遺産分割における預貯金の分け方について解説します。最初のステップは、預貯金の配分(誰がいくら受け取るか)を決めることです。このステップで行うのが「遺産分割協議」です。

遺産分割協議とは

遺産分割協議とは、遺言書がない場合や、遺言書に具体的な分割方法が記載されていない場合に、相続人全員で話し合って分割方法を決めることを指します。

法定相続分を参考にする

遺産分割協議で「どうやって取り分を決めればいいかわからない」という場合には、民法で定められた「法定相続分」を参考に取り分を決めましょう。法定相続分は、各相続人の取り分を法律で定めたもので、相続人の組み合わせによって以下のように定められています。

相続人配偶者の相続分子どもの相続分直系尊属の相続分兄弟姉妹の相続分
配偶者と子ども2分の12分の1
配偶者と親3分の23分の1
配偶者と兄弟姉妹4分の34分の1
配偶者のみ全額
子どものみ全額
親のみ全額
兄弟姉妹のみ全額

※子どもや兄弟姉妹が複数いる場合は、それぞれの相続分を均等に分けます。また、亡くなった方の子どもや兄弟姉妹が先に死亡している場合は、その子どもが代わりに相続する「代襲相続」が発生します。

具体例

例えば、遺産の預貯金が1,000万円で、相続人が配偶者と子ども2人の場合、配偶者の法定相続分は2分の1ですので、1,000万円×1/2=500万円が配偶者の取り分となります。子どもは2分の1の500万円を2人で分けるので、それぞれ250万円ずつが取り分となります。

相続人全員が納得すれば分け方は自由

法定相続分はあくまで目安であり、相続人全員が納得すれば、法定相続分とは異なる分け方をすることも可能です。例えば、相続人が配偶者と子ども2人のケースで、子ども2人が「遺産はすべて母親に譲る」と同意すれば、全額を配偶者が受け取ることもできます。ただし、相続人の誰かが反対する場合には、全員が納得する分け方を話し合いで決める必要があります。

ステップ2:3つの選択肢から遺産の分割方法を決める

遺産の取り分を決めたら、次は預貯金を具体的にどう分けるかを考えます。預貯金の分割方法には以下の3つの選択肢があります。

預貯金の3つの分割方法

  1. 口座を解約して、分割した預貯金を振込で受け取る
  2. 預金口座ごとに相続して、名義変更する
  3. 他の相続財産と調整する

それぞれの方法について詳しく見ていきましょう。


口座を解約して、分割した預貯金を振込で受け取る

預貯金を分割する際の一般的な方法は、被相続人(亡くなった方)の口座を解約し、分割した金額を振込で受け取る方法です。

例えば、被相続人のゆうちょ銀行の口座に1,000万円がある場合、相続人が配偶者と子ども1人で法定相続分通りに分ける場合、各々が500万円ずつを受け取ります。

金融機関に相続手続きを依頼し、相続人の口座に振り込んでもらうことができます。ただし、金融機関によっては個別の口座への振込に対応していない場合もあります。その場合、一旦代表相続人に全額振り込み、その後代表相続人から他の相続人に分配します。


預金口座ごとに相続して、名義変更する

次に、預金口座ごとに相続し、それぞれが口座を名義変更して自分の口座にする方法です。

例えば、相続人が子ども3人だけの場合(配偶者は既に死亡)、A銀行、B銀行、C銀行にそれぞれ300万円ずつの残高があったとします。この場合、長男がA銀行の口座を、次男がB銀行、三男がC銀行を相続し、その後各自が銀行に赴いて名義変更の手続きを行います。

この方法は、各口座の残高が取り分と一致している場合に有効です。もし不公平な場合は、口座の名義変更後に不足分を調整します。


他の相続財産と調整する

預貯金以外にも相続財産がある場合は、他の相続財産と調整する方法もあります。

例えば、2,000万円の預貯金と4,000万円の不動産を相続するケースで、相続人が子ども2人(兄と弟)だけの場合、法定相続分は各々3,000万円です。弟が2,000万円の預貯金を、兄が4,000万円の不動産を相続すると不公平です。そこで、兄は不動産を相続する代わりに、弟に1,000万円の代償金を支払います。このようにして、双方が平等に3,000万円分の資産を受け取ることができます。

このような方法を「代償分割」と言います。代償分割についてさらに詳しく知りたい方は、「代償分割なら『遺産を平等に分割』できる!基礎知識と注意点を解説」の記事もご覧ください。

預貯金がある場合の遺産分割の手順とは?

預貯金が含まれている遺産の分割方法について解説したところで、次に遺産分割の具体的な手順について説明します。

預貯金を含む遺産分割の手順

  1. 相続財産の調査を行う(預貯金・不動産・有価証券など)
  2. 金融機関に相続手続きの申請を行う
  3. 遺産分割協議で遺産の分け方を決める
  4. 遺産分割協議書を作成する
  5. 金融機関で預貯金の相続手続きを行う

これらの手順について順番に説明していきます。


流れ1:相続財産の調査を行う(預貯金・不動産・有価証券など)

最初に、故人の全ての遺産を把握するために相続財産調査を行います。具体的には、遺産の手がかりを探し、それを基に各機関に問い合わせて財産の総額を確認します。すべての財産が把握できたら、財産目録を作成しましょう。

たとえば、預貯金の場合は通帳やキャッシュカード、不動産の場合は固定資産税の納税通知書、有価証券の場合は証券口座のログイン情報などを探して、どのような相続財産があるか確認します。

手がかりが見つかったら、預貯金は銀行、証券口座は証券会社に連絡し、口座名義人が亡くなったことを伝えて相続手続きを開始します。手続きを進める中で残高証明書を送ってもらえるので、それで残高を確認します。

例:ゆうちょ銀行の貯金残高を確認する方法

  1. 相続人であることが確認できる戸籍謄本などを準備する
  2. 郵便局の窓口で「貯金等紹介書(相続用)」を提出する

詳しくは、ゆうちょ銀行の相続手続きの流れを参考にしてください。

相続財産調査についてさらに詳しく知りたい方は、「相続財産調査|漏れなく正確に行うための完全マニュアル」をご覧ください。


流れ2:金融機関に相続手続きの申請を行う

故人の預貯金を相続する際には、金融機関に相続手続きの申請を行う必要があります。申請に必要な書類が届くまでに時間がかかるため、遺産分割協議を始める前に申請を済ませておくとスムーズです。

例:三菱UFJ銀行の相続手続きの流れ

  1. Web受付フォーム、電話、または来店により相続の発生を連絡
  2. 三菱UFJ銀行から「相続届」などの書類が郵送される
  3. 遺産分割協議書や戸籍謄本などを準備し、最寄りの支店窓口に提出

詳しくは、三菱UFJ銀行の相続手続きガイドを参考にしてください。


流れ3:遺産分割協議で遺産の分け方を決める

次に、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産の分け方を決定します。相続人が誰になるか不明な場合は、別記事「遺産をもらえる法定相続人の範囲は?書き込みシートで簡単に分かる!」を参考にしてください。

預貯金の分け方については、以下のステップを参考にしてください。

  • ステップ1:預貯金の配分(取り分)を決める
  • ステップ2:3つの選択肢から遺産の分割方法を決める

これらのステップで、それぞれの取り分や分割方法を決めていきましょう。

流れ4:遺産分割協議書を作成する

遺産の分け方が決まったら、その内容を正式な文書としてまとめた遺産分割協議書を作成します。この書類は、預貯金の口座を相続して名義を変更したり、口座にある現金を払い戻したりする際に原則として必要です。ただし、金融機関によっては、相続人全員が合意したことを確認できれば、所定の書式に相続人全員が記入・押印することで手続きを進められる場合もあります。そのため、必ずしも遺産分割協議書である必要はありません。

遺産分割協議書は専門家に依頼せずとも、自分で作成できますが、書式には一定の要件があるため注意が必要です。以下に、預貯金に関する遺産分割協議書の文例を紹介します。

1つの預貯金口座を複数の相続人で分割する場合

以下の遺産については、相続人 山田太郎が2分の1、相続人 山田花子が2分の1の割合で取得する。なお、以下の遺産について、山田太郎は相続人を代表して解約および払い戻し、または名義変更の手続きを行い、山田花子の取得分については、別途指定する口座へ振込みによって引き渡すものとする。このときの振込手数料については、山田花子の負担とする。

  1. 預貯金
  • A銀行 〇〇支店 普通預金 口座番号1234567
  • 口座名義人 山田よね子

複数の口座をそれぞれの相続人が相続する場合

  1. 相続人 山田太郎は、以下の遺産を取得する。
  • 預貯金
    • A銀行 〇〇支店 普通預金 口座番号1234567
    • 口座名義人 山田よね子
  1. 相続人 山田花子は、以下の遺産を取得する。
  • 預貯金
    • B銀行 〇〇支店 普通預金 口座番号7654321
    • 口座名義人 山田よね子

相続人の1人が預貯金を相続し、代償金を支払う場合

  1. 相続人 山田太郎は以下の遺産を取得する。
  • 預貯金
    • A銀行 〇〇支店 普通預金 口座番号1234567
    • 口座名義人 山田よね子
  1. 山田太郎は上記の預金を取得する代償金として、山田花子に対し金500万円を支払う。

遺産分割協議書の内容は、ケースによって異なるため、状況に合った文面を選んで記載してください。


流れ5:金融機関で預貯金の相続手続きを行う

遺産分割協議書が準備できたら、次は金融機関で預貯金の相続手続きを行います。金融機関によって必要書類は異なりますが、遺産分割協議書のほかに、所定の届出書類、戸籍謄本、相続人全員の印鑑証明書などが求められることが多いです。

事前に金融機関に必要書類を問い合わせ、準備が整ったら窓口で手続きを行いましょう。

まとめ

預貯金を含む相続財産を分ける際、相続人は法定相続分を基に取り分を決定し、分割方法を選びます。

以下の内容をあらためて確認し、スムーズに手続きを進められると良いですね!

  1. 取り分を決める: 法定相続分を参考にしつつ、相続人全員が納得できるよう話し合い、取り分を決めます。
  2. 分割方法を選ぶ:
    • 口座を解約して振込で受け取る
    • 口座ごとに名義変更する
    • 他の財産と調整する(代償分割)

手続きの流れ:

  • 相続財産の調査を行い、全財産を把握します。
  • 金融機関に相続手続きの申請を行い、遺産分割協議を開始。
  • 遺産の分け方が決まったら、遺産分割協議書を作成。
  • 金融機関で正式な相続手続きを進めます。

法律的背景: 預貯金は2016年の最高裁判決により遺産分割の対象とされ、相続人全員の合意がなければ払い戻しができません。このため、相続人全員が協議内容に合意することが重要です。銀行への手続きには、遺産分割協議書や相続人全員の印鑑証明書などが必要です。

特例と対策: 遺産分割協議前に相続預金の仮払い制度を利用することで、葬儀費用や生活費が不足する場合に150万円までの払い戻しが可能です。また、代償分割を利用して公平な分配を行うこともできます。

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この記事を書いた人

弁護士|注力分野:相続

現在は立川の支店長弁護士として相続分野に注力して奮闘しております。今後も相談者の心に寄り添い、活動していく所存です。どのような法律問題でも、お気軽にご相談ください。

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