相続が発生した際には大きな問題にならなくても、後々トラブルの原因となりやすいものに「お墓」があります。先祖代々の墓を誰が引き継ぎ、管理していくのかで意見が分かれることも少なくありません。ここでは、お墓を引き継ぐ役割を担う「祭祀承継者」について詳しく解説します。さらに、お墓の相続手続きや、その際に必要な書類についても確認していきます。
お墓は祭祀継承者が相続する
お墓は祭祀承継者が相続することになりますが、遺産分割の場でその引き継ぎを話し合うことはあまり一般的ではありません。
これは、お墓が相続税の対象とならない「祭祀財産」として扱われるためです。
祭祀財産は非課税であり、個人の所有物とは考えられないため、誰が相続するかをあえて決める必要がないと感じる人が多いのです。
さらに、多くの人にとって、お墓は家族全員で管理するものという意識が強く、特定の個人が管理するという考え方が馴染まない場合もあります。
祭祀財産であるお墓を相続するのは、祭祀承継者と呼ばれる人物です。祭祀承継者を決定する際には、以下のような人がいないかを確認します。
- 被相続人が指定した人
- 慣習的にお墓を管理してきた人
これらに該当する人がいない場合は、家庭裁判所が祭祀承継者を決定することになります。この場合、承継候補者の被相続人との関係や居住地などを考慮し、審理を経て決定されます。
ただし、実際には多くの場合、慣習や家族の合意に基づいて祭祀承継者が決定されることが一般的です。
祭祀承継者になるメリットとデメリット
お墓を相続する役割が祭祀承継者であることがわかりましたが、実際に祭祀承継者となることには、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
メリット
祭祀承継者となる最大のメリットは、お墓や祭祀財産の管理方法を自分の希望に沿って決められることです。例えば、お墓を自宅の近くに移したい、または自宅に仏壇や位牌を置いておきたいといった願いを実現できます。故人を身近に感じながら暮らしたいと考える人にとって、祭祀承継者となることは非常に大きな利点となるでしょう。
デメリット
一方で、祭祀承継者となることにはデメリットもあります。主なデメリットは、祭祀財産の管理にかかる費用や労力がかなりの負担となる可能性がある点です。墓地の管理費や法要の費用は少なくなく、経済的な負担が重くなることがあります。また、自然災害などで墓地が損傷した場合、その対応にはさらに時間と労力が必要となります。
このように、祭祀承継者は重要な役割を担いますが、実際にその立場になると、多くの負担が伴うことも覚悟しなければならないでしょう。
お墓の相続で起こりやすい3つのトラブルとその対処法
お墓を相続する際、祭祀財産であり相続税がかからないため、トラブルは起こりにくいと考える方もいるかもしれません。しかし実際には、いくつかのトラブルが発生することがあります。ここでは、お墓の相続でよく見られる3つのトラブルと、それぞれの対処法について解説します。
1. 誰がお墓を相続するかで揉める
祭祀継承者になりたいと希望する人が複数いる場合、誰がその役割を担うかで争いが起こることがあります。お墓の管理は家族全員で行うことが理想ですが、どうしても中心になりたいと主張する人が出てくることも少なくありません。このような場合、祭祀継承者をどう決めるかが大きな問題になります。
対処法としては、祭祀継承者となった人も他の遺族が墓地の管理に関与できることを理解し、協力体制を明確にすることが重要です。「みんなで協力して管理する」という姿勢を祭祀継承者が示すことで、トラブルの回避につながります。
2. 誰もお墓を相続したくなくて揉める
反対に、誰も祭祀継承者になりたくないというケースもあります。この場合、お墓参りはしたいが、祭祀財産の管理は負担だと感じる遺族が多く、結果として誰が継承者になるかで揉めることになります。
このような状況では、「墓仕舞い」も一つの選択肢です。墓仕舞いとは、遠方にあるお墓を返還し、都市部の施設で永代供養を行う方法です。これにより、遠方のお墓の管理負担を軽減し、家族が安心して参拝できる環境を整えることができます。
3. お墓の相続が遺産分割に影響する
お墓は祭祀財産であり、相続税の対象外であるため、遺産分割には影響しないとされています。しかし、祭祀継承者となった人が、管理費や交通費、墓地の管理者との連絡などの負担を考慮して、遺産分割において自分の取り分を増やすよう主張することがあります。
この場合、遺産分割の協議が終盤になってから再調整を求められると、遺産分割が成立しにくくなることがあります。対処法としては、遺産分割の初期段階で、祭祀継承者の負担を考慮した上での分配を明確にしておくことが大切です。これにより、後々のトラブルを避けることができます。
お墓の相続手続きと必要書類
お墓を相続する際には、どのような手続きが必要になるのでしょうか。以下に、具体的な手続きと必要な書類について説明します。
まず、祭祀承継者が決まったら、墓地の管理者に連絡を入れ、相続が発生したことと新しい祭祀承継者が決定したことを伝えます。しかし、連絡を受けた後にすぐに名義変更が行われるわけではなく、いくつかの書類を準備し、祭祀承継者であることが確認された上で、正式な手続きが進められます。
墓地の管理者に提出する書類は、墓地によって多少異なりますが、一般的には以下の書類が必要です。
- 名義変更申請書
- 墓地使用許可証や永代使用承諾証などの書類(墓地使用権を取得した際に発行されたもの)
- 現在の名義人が亡くなったことを証明する書類(戸籍謄本など)
- 墓地を承継する人の戸籍謄本や住民票
- 墓地を承継する人の印鑑証明書
- 祭祀承継者であることを証明する書類(遺言書や親族による同意書など)
また、お墓の相続手続きを行う際には、手続きにかかる費用も考慮する必要があります。公営墓地の場合、民営墓地に比べて手数料が安い傾向がありますが、民営墓地でも手数料は通常数千円程度、高くても1万円程度です。
これらの書類を揃え、適切に手続きを行うことで、スムーズにお墓の相続を進めることができます。
まとめ
お墓の相続手続きは、他の遺産手続きと比べて後回しにされがちです。これは、相続税がかからず、遺産分割の際に考慮する必要が少ないためです。
しかし、お墓の管理が放置される状況は避けたいものです。適切な管理者を決め、どうしても管理が難しい場合には、墓仕舞いなどの代替策を検討しておくことが大切です。