「養子縁組を利用して相続税を節税できると聞いたけれど、トラブルが起こる可能性も気になる」「養子縁組でどのようなトラブルが生じるのだろう」
相続税の節税を目的として養子縁組を選ぶ方は多くいらっしゃいますが、それによる相続のトラブルも実際に発生しています。この記事では、相続トラブルの事例を知る事であらかじめトラブルを防止する方法をお伝えしていきます。
トラブル①:子どもの配偶者を養子にした後、離婚に至ったケース
家業を継がせるためなどの理由で、娘の婿を養子にすることは珍しくありません。しかし、その後、娘夫婦が離婚した場合、婿との養子縁組を解消する際にトラブルが生じることがあります。
娘が離婚すると、娘と婿の婚姻関係は終了しますが、被相続人との養子縁組の関係はそのまま残ります。このままでは、養子になった婿の相続権も維持されるため、養子縁組の解消手続きが必要になりますが、この手続きは簡単ではありません。
養子縁組を解消するには、役所に「離縁届」を提出する必要がありますが、離縁には双方の合意が求められます。つまり、婿が離縁に同意しない場合、養子縁組を解消することはできません。
もし養子縁組を拒否された場合には、家庭裁判所に「離縁調停」を申し立てることが必要となり、長期的な対応を余儀なくされる可能性があります。
トラブル②:結婚相手の子どもを養子にした後に離婚した場合
結婚相手の子どもを養子にした後で離婚することになると、その子どもとの養子関係が残り、トラブルが発生する可能性があります。
結婚相手に連れ子がいる場合、婚姻によってその子どもが自分の戸籍に入るわけではありません。そのため、家族の絆を深める目的や、扶養関係を確立するために、養子縁組をして連れ子を自分の養子とすることがよくあります。
しかし、結婚相手と離婚したとしても、その養子縁組は自動的に解消されるわけではありません。
養子縁組を解消するには「離縁」の手続きが必要ですが、連れ子が15歳未満の場合、実母または実父といった法定代理人の同意が求められます。
また、離縁が成立しなければ、親子関係も継続されるため、養子が未成年であれば扶養義務も残ることになります。
トラブル③:実子の相続分が減ることへの不満から、遺産分割協議で争いに発展
養子縁組により法定相続人が増えると、実子の相続分が減少するため、これに対する不満がトラブルの原因となることがあるのです。
たとえば、被相続人が亡くなり、配偶者と実子2人がいる場合、法定相続分は配偶者が2分の1、残りの2分の1を実子2人が等分するため、実子1人あたりの相続分は全体の4分の1となります。
しかし、養子縁組が行われた場合、養子は法律上、実子と同等の相続権を持つため、相続の状況が変わります。実子2人に養子が1人いる場合、配偶者の相続分は2分の1のままですが、残りの2分の1を実子2人と養子の3人で分けることになり、それぞれの取り分は6分の1に減少します。
このような場合、実子から見ると、養子が突然家族の財産を「奪っていく」ように映り、相続財産の減少に納得がいかないことから、被相続人の死後に遺産分割協議でのトラブルが生じることが多いです。
養子縁組を行う際に、実子の同意を得る必要はありませんが、被相続人が独断で養子縁組を進めると、その後、長期にわたり親族間で感情的な対立が生じるリスクがあります。そのため、養子縁組を検討する際には、親族間で十分に話し合うことが重要です。
トラブル④:孫を養子にした結果、相続税が予想外に高額になったケース
相続税対策として孫を養子にすることは一般的な方法ですが、孫を養子にした場合には相続税の税率が高くなるため、場合によってはかえって相続税が高額になることがあります。
相続税は、相続人が以下のいずれかに該当する場合、税額が2割増しとなります。これを「相続税の2割加算」といいます。
- 配偶者ではない
- 被相続人の1親等の血族(両親または子ども)
通常の養子縁組では、養子は実子と同じ扱いとなり、この2割加算の対象から外れますが、孫を養子にする場合には、法律により2割加算の対象とされます。
相続税法第18条第2項では、「一親等の血族には、被相続人の直系卑属がその被相続人の養子となっている場合を含まない」と定められています。
つまり、孫を養子にした場合、2割加算の除外対象にはならないため、相続税は2親等以上の相続人と同じく2割増しとなります。
この「相続税の2割加算」により、節税目的で行った養子縁組が、かえって相続税を増やす結果になることもあります。そのため、相続税の節税目的で養子縁組を検討する際には、事前に支払う相続税をしっかりと試算しておくことをお勧めします。
トラブル⑤:相続税の申告で養子の相続権が認められなかったケース
相続対策として養子縁組を行うことは一般的ですが、養子縁組が明らかに相続税の節税を目的として行われたと税務署が判断した場合、養子の相続権が認められないリスクがあります。
相続税法第63条には次のように定められています。
「養子の数を相続人の数に含めることで相続税の負担が不当に減少すると認められる場合、税務署長は、相続税の更正または決定に際し、その養子の数を相続人の数に含めずに、相続税の課税価格および相続税額を計算することができる。」
つまり、税務署が養子縁組が節税目的で行われ、相続税が不当に減額されていると判断した場合、その養子を法定相続人として認めず、相続税の計算から除外することができるのです。
そのため、養子縁組が節税のみを目的として行われ、実際に親子関係を築く意思がない場合、養子の相続権が認められない可能性があることに注意が必要です。
養子縁組の解消に相手が反対している場合どうするの?
前述の通り、養子縁組を解消するには、役所に「離縁届」を提出する必要がありますが、これは双方の合意が不可欠です。合意が得られない場合には、以下の手続きで養子縁組の解消を試みることになります。
養子縁組の解消が承諾されない場合の手続きは2つ。
1. 離縁調停
2. 裁判による離縁
1. 離縁調停
養子縁組の解消を希望しても相手の同意が得られない場合、家庭裁判所に「離縁調停」を申し立てることができます。
「離縁調停」とは、養子縁組の解消に関する合意が得られない場合に、調停委員を介して双方で話し合いを行い、解決を図る手続きです。第三者である調停委員が介入することで、感情的な対立を避け、冷静な協議が可能になります。
ただし、離縁調停でも両者の合意が必要なことには変わりなく、調停が不成立に終わることもあります。
2. 裁判による離縁
離縁調停で合意に至らなかった場合、裁判を通じて離縁を求めることができます。裁判では、養子または養親が離縁に同意しない場合でも、裁判官が双方の主張と証拠に基づいて離縁の可否を判断します。
離縁が認められるためには、以下の法律で定められた理由のいずれかに該当しなければなりません:
- 相手から悪意で遺棄された場合
- 相手の生死が3年以上不明である場合
- その他、縁組を継続できない重大な理由がある場合
このように、一度成立した養子縁組を解消するには多大な労力が必要になるため、特に相続税対策として養子縁組を行う際には慎重な判断が求められます。
養子の相続トラブルは、こうやって対処する
被相続人が亡くなった際、法定相続人は遺産分割協議を行い、遺産の分配方法について合意する必要があります。しかし、養子縁組が絡む相続でトラブルが発生し、法定相続人全員の同意が得られない場合には、次の手順で手続きを進めます。
養子の相続で親族とトラブルが生じた場合の手続き
1. 遺産分割調停
2. 遺産分割審判
1. 遺産分割調停
相続において法定相続人が合意に達しない場合、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てることが可能です。
遺産分割調停では、家庭裁判所の調停委員が相続人の間に入って話し合いを進め、合意を促します。ただし、調停委員は中立的な立場で助言を行うだけであり、最終的に合意に至らないケースも少なくありません。
2. 遺産分割審判
調停が不成立に終わった場合、「遺産分割審判」を申し立てることができます。遺産分割審判では、裁判官が審判を通じて遺産の分配方法を決定します。
養子縁組が絡む相続の場合でも、裁判官はすべての法定相続人の主張を聞いたうえで、法律に基づいて判決を下します。相続人はこの判決に従わなければなりません。
判決に不服がある場合は「即時抗告」を行い、高等裁判所で再審理を求めることができます。
養子縁組による相続トラブルを避ける方法とは?
ぜひ私たち弁護士にご相談ください。
弁護士に相談して進めることが最も適切です。弁護士に相談することで、特に以下の3つの点で大きなメリットがあります。
1. 養子縁組の相続を円滑に進められる
弁護士のサポートにより、親族間の同意を得て養子縁組や相続を円滑に進めることができます。親族関係における確執は、養子縁組に関する相続で最も避けたい問題です。多くの人にとって、養子縁組は初めての経験であり、簡単ではありません。このような状況で、弁護士のアドバイスを受けながら慎重に話し合いを進めることで、トラブルを回避し、円満な相続手続きを実現することができます。
2. 未来の兄弟喧嘩を防げる
弁護士の助けを借りれば、法的に有効な遺言書を正しく作成することができます。被相続人の死後に発生する可能性のある相続トラブルを防ぐため、遺言書を残すことは非常に重要です。ただし、遺言書は単に書くだけではなく、法的に有効な内容を含める必要があります。弁護士のサポートを受けて遺言書を正しく作成・管理することで、死後のトラブルを未然に防ぐことができ、養子を含む相続をスムーズに進める助けとなります。
3. 節税対策に養子縁組が最適化を判断できる
養子縁組による相続税の節税効果はよく知られていますが、実際に効果があるかどうかは相続の状況に依存します。弁護士に相談することで、養子縁組が相続対策として最適な方法であるかどうかを判断してもらえます。具体的には、以下のような点について助言を受けることができます。
- 実際にどの程度の節税が可能か
- 養子縁組に伴う手間やリスクが、それに見合うものであるか
- 養子縁組以外に利用できる節税対策はないか
これらの点を弁護士が客観的に検討し、最も適切な方法を提案してくれます。そのため、養子縁組を検討している場合は、事前に弁護士に相談することを強くお勧めします。