遺留分侵害額請求についてまるっと解説

親が亡くなった後、不公平な遺言書が残されていた場合でも、諦める必要はありません。特定の親族には、法的に保障された最低限の遺産を取得する権利、「遺留分」が認められているからです。遺言によって多くの財産を受け取った相手に対して、この遺留分を取り戻すために行う手続きが「遺留分侵害額請求」です。この記事では、遺留分侵害額請求の手続き方法や、弁護士に依頼するメリットについて詳しく解説します。

目次

遺留分とは

遺言や贈与による不公平な分配の可能性

故人が残した遺言書や生前贈与によって、遺産の分配が不公平になることがあります。たとえば、遺言書に「すべての財産を長男に相続させる」と記されていた場合、次男や長女など他の相続人が遺産を一切受け取れない可能性があります。また、長男に多くの遺産を相続させると記載されている場合でも、他の相続人が受け取れる遺産が大幅に減少してしまうことがあります。

主張する価値あり! 「遺留分」

遺言書の内容に従って遺産を分配するのが原則ですが、特定の相続人には法的に保護された最低限の相続分である「遺留分」が認められています。遺留分は、遺言書の内容にかかわらず、権利を主張することで最低限の遺産を受け取ることができます。

遺留分が認められる相続人は以下の通りです。

  • 配偶者
  • 子どもや孫などの直系卑属
  • 親や祖父母などの直系尊属

なお、兄弟姉妹やその子ども(甥・姪)には遺留分が認められていません。

遺留分の割合と金額

遺留分の金額は、法定相続分の半分が基準となります。

たとえば、配偶者と子どもが相続人の場合、法定相続分は「配偶者が2分の1、子どもが2分の1」となります。子どもが複数いる場合は、子ども全体の相続分である2分の1をさらに人数で分けます。たとえば、2人兄妹の場合、兄の法定相続分は「4分の1」となり、遺留分はその半分の「8分の1」です。遺産が4000万円の場合、兄の遺留分は500万円となります。

遺留分侵害額請求権とは

侵害された遺留分を取り戻すための権利

遺言や生前贈与によって遺留分が侵害された法定相続人は、侵害を受けた遺留分を取り戻す権利を持っています。この権利を「遺留分侵害額請求権」と呼びます。

例えば、「長男に全財産を相続させる」という遺言があった場合でも、次男や長女は「遺留分侵害額請求権」を行使することで、長男に対して最低限の遺留分を請求できます。

遺留分侵害額請求は、侵害された遺留分に相当する金銭を取り戻す権利です。例えば、次男の遺留分が500万円分侵害された場合、次男は長男に対して500万円の支払いを請求できます。

遺留分侵害額請求権の時効と期限

遺留分侵害額請求権には消滅時効が適用されます(民法第1048条)。具体的には以下の通りです。

  • 相続開始と遺留分侵害を知ってから1年以内 被相続人が死亡した事実や、遺留分を侵害する遺言や贈与があることを知った時点から1年以内に、遺留分侵害額請求をしなければなりません。
  • 相続開始から10年以内 遺留分の侵害を知っていなくても、相続開始から10年が経過すると、遺留分侵害額請求権は時効で消滅します。

このように、遺留分侵害額請求権には時効があるため、早めの対応が重要です。

遺留分減殺請求との違い

2019年7月1日の相続法改正により、遺留分の請求方法が「遺留分減殺請求権」から「遺留分侵害額請求権」に変更されました。

従来の「遺留分減殺請求権」では、遺留分は「物権的権利」とされており、侵害された遺産そのものを取り戻すことが可能でした。例えば、長男が不動産を全て相続した場合、次男が遺留分減殺請求権を行使すると、その不動産を長男から取り戻すことができ、不動産は次男と長男の共有状態になる可能性がありました。

しかし、共有不動産を巡るトラブルが親族間で発生することが多かったため、法改正により「遺留分減殺請求権」は「遺留分侵害額請求権」に変更されました。これにより、遺産そのものではなく、金銭を請求する権利(債権的権利)として取り扱われるようになり、相続トラブルを防ぐことが容易になりました

遺留分侵害額請求権の手続きの流れ

遺留分侵害額請求を行う際は、以下の手順で進めるのが一般的です。

遺留分を侵害した相手と協議する

まず、親族同士で話し合い、遺留分の支払いに応じてもらえる可能性がある場合は、相手に連絡して支払いを求めましょう。相手が協力的であれば、円満に解決できます。

この際、必ず「遺留分侵害額についての合意書」を作成し、書面での合意を残しておくことが重要です。これにより、後のトラブルを防ぐことができます。

内容証明郵便で請求する

もし相手がすぐに応じそうにない場合は、「内容証明郵便」で遺留分侵害額請求書を送りましょう。

遺留分侵害額請求は、「相続の開始と侵害を知ってから1年以内」に行う必要があります。内容証明郵便で通知すると、時効が一時的に停止されるため、協議が長引く場合は必ず内容証明郵便を使用して請求することをおすすめします。

4-3. 遺留分侵害額請求調停の申し立て

相手との話し合いで解決しない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てましょう。

調停では、裁判所が介入して双方の話し合いを仲介します。調停委員がそれぞれの意見を聞き、合意に向けた調整を行います。直接相手と顔を合わせずに済むため、冷静に話し合いができ、合意に至りやすくなります。

調停が成立すると調停調書が作成され、これに基づいて遺留分の支払いが行われます。もし相手が支払いに応じない場合、強制執行も可能です。

遺留分侵害額請求訴訟の提起

調停で合意に至らなかった場合は、遺留分侵害額請求訴訟を起こします。請求金額が140万円以下であれば簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所に訴訟を提起します。家庭裁判所ではないので、注意が必要です。

訴訟を成功させるためには、証拠を提示し、法律的に整理された主張を行う必要があります。訴訟の過程で裁判官が和解案を提示することもありますが、和解に応じた場合は訴訟が終了します。和解できない場合は判決が下され、判決に不服があれば控訴することも可能です。

遺留分を取り戻した際にかかる相続税

遺留分侵害額を取り戻した場合、相続税が発生する可能性があります。遺留分侵害額の支払いを受けた際、遺産の総額が基礎控除を超える場合は、相続税の申告が必要です。

相続開始から10ヶ月を過ぎている場合は、「相続税の期限後申告書」を提出し、速やかに相続税を納付しましょう。

遺留分侵害額を支払った側は、支払額に応じて相続税が減額される可能性があり、過払いとなった場合は更正請求を行うことで還付を受けることができます。一度税理士に相談して、適切な手続きを進めることが推奨されます。

弁護士に遺留分侵害額請求を相談するメリット

時効を防ぐことができる

遺留分には「相続開始と遺留分侵害を知ってから1年以内」という時効があります。自身で悩んでいるうちに、この期間はあっという間に過ぎてしまうこともあります。時効が成立すると、遺留分の請求は一切できなくなってしまいます。

迷っている場合でも、弁護士のアドバイスを受ければ状況が整理され、適切な行動を取ることができます。請求を決断した際、すぐに内容証明郵便を送ることで時効を停止できるため、権利を失う心配を防げます。

交渉を代行してもらえる

遺留分を取り戻すためには、相手との交渉が不可欠です。しかし、当事者同士の話し合いでは感情的になりがちで、遺産の評価や遺留分の計算が正確に行われないこともあります。

弁護士に依頼すれば、交渉や必要な計算、評価をすべて任せることができ、手間を大幅に省けるだけでなく、安心して手続きを進めることができます。

調停や訴訟を有利に進められる

遺留分侵害額請求は、話し合いで解決しない場合、調停や訴訟に発展することがあります。

弁護士に依頼することで、調停や訴訟も有利に進められます。特に訴訟は法律の専門知識が必要で、一般の方には難しいものです。早い段階で弁護士に相談することで、より効果的に進めることができます。

遺留分侵害額請求を受けた場合の対処法

突然、内容証明郵便などで遺留分侵害額請求を受けた場合、どのように対応すべきか?

まず、慌てずに冷静に支払い義務の有無を確認しましょう。時効が成立していれば支払う必要はありませんし、相手の計算が正確でない可能性もあります。自分で正しい遺留分の計算を行い、返還すべき金額を確認しましょう。

基本的には話し合いで解決するのが望ましいですが、話し合いが決裂した場合、相手が調停や訴訟を申し立てる可能性があります。その際、出頭を拒否したり無視する態度は避けましょう。調停や訴訟で決まった内容を守らない場合、財産の差し押さえを受けるリスクがありますので、必ず約束を守ることが重要です。

まとめ:経験豊富な弁護士を選ぶことが重要

遺留分侵害額請求を依頼・相談する際は、相続案件に精通し、経験豊富な弁護士を選ぶことが大切です。弁護士のプロフィールや実績、年齢、雰囲気などを確認し、自分に合った弁護士を選ぶと良いでしょう。

時効の問題もあるため、迷わず早めに行動を開始することが大切です。

(本記事は2022年9月1日時点の情報に基づいています)

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この記事を書いた人

弁護士|注力分野:相続

現在は立川の支店長弁護士として相続分野に注力して奮闘しております。今後も相談者の心に寄り添い、活動していく所存です。どのような法律問題でも、お気軽にご相談ください。

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