相続手続きの期限に注意!遺産分割の重要なポイント

「遺産分割協議には期限があるのか?」「どの時点までに遺産分割協議を終わらせる必要があるのか?」といった疑問をお持ちの方は少なくありません。

結論から述べると、遺産分割協議そのものに法律で定められた期限はありません。民法第907条によれば、遺産分割の協議はいつでも行うことが可能とされています。したがって、相続が始まってから10年、あるいは20年後に協議を行っても法律上の問題はありません。

しかし、それでも「いつでも良い」と油断してはいけません。遺産分割協議自体に期限がなくても、他の関連する期限や時効が存在するためです。例えば、相続開始を知った日から3カ月を過ぎると「相続放棄」ができなくなりますし、相続税の申告は相続開始から10カ月以内に行う必要があります。

こうした他の期限を考慮しないと、遺産分割協議を遅らせることで結果的に不利益を被る可能性があります。

この記事では、遺産分割協議を早めに行うべき理由を、関連する期限について詳しく解説します。

大切な方の遺産を適切に受け取るために失敗したくない方は、ぜひこの記事を最後まで読み、どのような期限に注意すべきかを理解してください。

目次

遺産分割協議に法的な期限はありません

初めに述べたように、遺産分割協議には法的な期限が存在しません。「いつまでに遺産分割協議をしなければならない」といった時効はありません。民法第907条でも、「遺産の分割はいつでも行える」と明記されています。

(遺産の分割の協議または審判等)

第907条 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも協議によって遺産の全部または一部を分割することができます。

ただし、「被相続人が遺言で禁じた場合」とは、被相続人が遺言で遺産分割を禁じる旨を指定した場合を指します。この分割禁止の指定は最大5年間に限られます。

したがって、被相続人が亡くなってから10年後、20年後に遺産分割協議をすることも可能です。しかし、「遺産分割協議はいつでも良い」というわけではありません。

早めに遺産分割協議を行うべき理由

遺産分割協議そのものには期限がありませんが、協議を早めに行うことが重要です。なぜなら、相続に関わる他の期限や時効が存在し、これらを考慮せずに遺産分割協議を遅らせると、さまざまな不利益を被る可能性が高いからです。以下は、注意すべき主な期限です。

  1. 相続放棄・限定承認の期限: 相続開始を知ってから3カ月を過ぎると、相続放棄や限定承認ができなくなります。この期限を過ぎると、マイナスの財産を含むすべての財産を相続することになります。
  2. 相続税の申告・納付期限: 相続開始から10カ月以内に相続税を申告し、納付しなければなりません。期限を過ぎると延滞税が発生します。
  3. 相続登記の期限: 不動産の名義変更は3年以内に行う必要があります。これを過ぎると、罰則として10万円以下の過料が科される可能性があります。
  4. 預金の払い戻し権: 預金の払い戻し請求権の消滅時効は、権利行使を知ってから5年、または権利行使できる時から10年です。この期間を過ぎると、法的に銀行が払い戻しを拒否することが可能になります。
  5. 株主の権利: 5年間連絡が取れないなどの条件が揃うと、発行会社はその株式を売却することができます。この期間を過ぎると、株主としての権利が失われる可能性があります。
  6. 特別受益・寄与分の主張期間: 相続開始後10年を超えると、特別受益や寄与分の主張ができなくなります。民法の改正により、この期間制限が設定されています。

以上のように、遺産分割協議を早めに行わないと、さまざまな期限や時効に影響を受け、手続きが煩雑になったり、望む内容を実現できなくなったりすることがあります。

  • 3カ月を過ぎると相続放棄ができなくなる
  • 10カ月で相続税申告・納付期限が来る
  • 3年で相続登記(不動産名義変更)の期限が到来する
  • 5年または10年で預金・株式の権利が消滅する可能性がある
  • 10年で特別受益・寄与分の主張ができなくなる
  • その他、死亡一時金受け取りなどの期限も存在する

それぞれの期限や時効について、詳しく解説していきます。

3カ月を過ぎると相続放棄ができなくなる理由

遺産分割協議に期限はありませんが、早めに協議を進めるべき理由の一つに、「相続放棄や限定承認の期限が3カ月である」という点があります。原則として、相続が始まったことを知ってから3カ月を過ぎると、相続放棄や限定承認ができなくなります。

相続放棄とは

被相続人(亡くなった方)の財産に関する相続権を全て放棄することを指します。これにより、プラスの財産もマイナスの財産も一切受け継ぎません。

限定承認とは

被相続人の財産から、借金などのマイナスの財産を精算し、残った財産のみを引き継ぐ手続きです。

この3カ月以内に相続放棄や限定承認をしないと、「単純承認」とみなされます。単純承認とは、プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続することです。つまり、期限内に手続きを行わないと借金などの負担を受け継ぐことになります。

相続放棄や限定承認の選択肢を確保するためには、できるだけ早く相続財産の調査を開始することが重要です。

10カ月で相続税申告・納付期限が来る理由

遺産分割協議は、可能な限り相続開始から10カ月以内に行うことが推奨されます。これは、相続税の申告と納付の期限が10カ月以内に設定されているためです。

基礎控除額を超える相続財産を取得した場合、相続税の申告と納付が必要になります。この期限は、被相続人が亡くなったことを知った翌日から10カ月以内です。遺産分割協議が完了していなくても、10カ月の時点で暫定的に相続税を支払わなければなりません。

具体的には、法定相続分(民法で規定された分配割合)に基づいて一旦それぞれが相続税を申告する必要があります。この段階では、相続税額を軽減する特例(配偶者控除の特例や小規模宅地の特例など)が適用されません。

申告時に「3年以内の分割見込書」を提出することで、後に協議がまとまった場合、特例による控除の還付を受けることが可能です。ただし、これには追加の手続きが必要となり、申告時に支払う相続税額が高額になるといったデメリットがあります。

こうしたデメリットを避けるためにも、遺産分割協議はできるだけ10カ月以内に完了し、各相続人が確定した相続税を申告・納税することをおすすめします。

3年で相続登記の期限が到来する理由

不動産を相続した場合、その名義を故人から相続人に変更する「相続登記」が必要です。これまで相続登記には期限がありませんでしたが、民法の改正により、2024年4月1日から「3年以内に相続登記を行うこと」が義務化されました。

この義務化により、不動産取得を知った日から3年以内に相続登記を完了させなければならず、期限を過ぎた場合には10万円以下の過料が科される可能性があります。

もし相続登記の期限までに遺産分割協議がまとまらない場合、「相続人申告登記」という方法を利用できます。これは、遺産分割が未確定のケースで登記手続きの負担を軽減する制度です。相続人申告登記を行うことで、3年以内に法務局に申告し、相続登記の義務を果たしたとみなされます。

相続人申請登記とは

遺産分割がまとまらない場合に、登記手続きを一時的に履行する制度です。申告後、遺産分割協議が成立してから3年以内に正式な相続登記を行う必要があります。

この制度を利用すると、相続人申告登記を行う手間が発生し、その後に正式な相続登記をしなければならないため、手続きと費用の負担が増加します。したがって、3年以内に遺産分割協議を完了することが望ましいです。

5年または10年で預金・株式の権利が消滅する可能性がある理由

遺産分割協議には法的な期限がありませんが、協議を5年または10年以上行わずにいると、預金や株式に関する権利が消滅する可能性があるため、注意が必要です。

預金に関する権利

相続財産に預金が含まれる場合、銀行預金の払い戻しを請求する権利(債権)の消滅時効は5年または10年です(民法166条1項)。具体的には、債権者が権利を行使できると知った時から5年間、または権利行使可能な状態から10年間が経過すると消滅時効が成立します。これにより、法律上、預金の払い戻しができなくなる可能性があります。実務上は、5年を超えても払い戻しに応じることが多いですが、法的に拒否することが可能です。

株式に関する権利

相続財産に株式が含まれている場合、遺産分割協議が進まず、株主名義が変更されないことがあります。この場合、株主の権利は5年で消滅する可能性があります。株主への通知や催告が5年以上到達せず、配当を受け取っていない場合、発行会社はその株式を売却することが可能です。

株主の権利を維持するためには、早期に遺産分割協議を行い、株主名義を変更し、通知や配当を確実に受け取れるようにしておくことが重要です。

10年で特別受益と寄与分の主張ができなくなる理由

遺産分割協議には法的な期限はありませんが、民法の改正により、相続開始から10年を過ぎた場合、特別受益や寄与分を主張することができなくなります。この改正は2023年4月1日から施行されており、特別受益や寄与分を主張したい場合は、10年以内に遺産分割協議を終える必要があります。

特別受益とは

一部の相続人が故人から受け取った特別な財産のことを指します。この特別受益は、相続財産に反映されることで、相続人間の不公平を是正します。たとえば、特定の相続人が住宅購入資金を生前贈与されていた場合、その分を考慮して相続分を計算します。

寄与分とは

被相続人(故人)の財産維持や増加に貢献した相続人が、その貢献度に応じて通常の相続分に加えて受け取ることができる遺産のことを指します。例えば、特定の相続人が故人の特別な介護をしていた場合、他の相続人より多めに遺産を受け取ることが認められることがあります。

これまでは、特別受益や寄与分の主張に期限はありませんでしたが、2023年4月1日からの民法改正により、相続開始から10年が経過すると主張できなくなります。この改正は2023年4月1日以前に発生した相続にも適用されますが、施行日から5年以内にその期限を迎える場合には猶予期間があり、施行日から5年以内は特別受益も寄与分も主張できるとされています。

特別受益と寄与分の主張ができない場合、裁判所は法定相続分または指定相続分に基づく分割のみを認めることになります。そのため、特別受益と寄与分を考慮した遺産分割を希望する場合は、相続開始後10年以内に遺産分割協議を完了させることが重要です。

その他の重要な期限

上記のほかにも、次のような重要な時効があります。

  • 死亡一時金の受け取り権利の時効:2年
    亡くなった方が国民年金の第1号被保険者であった場合、「死亡一時金」は被保険者が死亡した翌日から2年で時効を迎え、受け取れなくなります。
  • 生命保険の受け取り請求権の時効:3年
    生命保険に加入していた故人の死亡保険金の請求権は、3年で時効を迎えます(保険法第95条)。
  • 共同相続人による遺産取得の時効:10年または20年
    特定の相続人が遺産を占有し続けている場合、占有開始から10年または20年が経過すると「取得時効」が成立し、所有権が確定することがあります。

これらの権利を失わないためにも、遺産分割協議は早めに行うことが推奨されます。

遺産分割協議の進め方(4ステップ)

遺産分割協議は、可能な限り早期に進めるべきです。しかし、「遺産分割協議はどのように進めればよいのか?」と疑問に思う方も多いでしょう。ここでは、遺産分割協議を進めるための基本的なステップを紹介します。

法定相続人と相続分(割合)の確定

相続が発生した際には、まず誰が相続権を持っているのかを確定する必要があります。以下のチャートを使うと、「誰が法定相続人か」「相続分の割合はどのくらいか」を簡単に確認できます。

法定相続人全員の参加が必要となるため、戸籍を取得して相続人調査を行い、漏れがないように確認しましょう。

相続財産調査の実施

次に、相続財産を確定するために「相続財産調査」を行います。これは、亡くなった方の遺産の全体像を把握するための重要なステップです。

  • 進め方
    相続財産の手がかりを探し、死亡時の財産額を確認します。
  • 方法
    自分で調査するか、専門家に依頼することができます。
  • 費用の目安
    自分で行う場合:数千円~数万円。
    専門家に依頼する場合:約10万円~30万円。
  • 期間の目安
    1~2カ月程度です。

正確な相続税の申告や相続放棄の判断を行うためにも、しっかりと相続財産調査を行いましょう。相続財産を確定したら、財産目録(財産の一覧表)を作成しておくと、遺産分割協議をスムーズに進めることができます。

相続人全員での遺産分割協議書の作成

相続人と相続財産が確定したら、相続人全員で遺産分割について話し合いを行います。一般的には法定相続分を基に決めますが、全員が合意すれば、法定相続分と異なる割合で相続しても問題ありません。

例えば、「土地Aと住宅Bは配偶者が相続し、土地Cと現金の3分の1を長男が、現金の3分の2を次男が相続する」など、自由に内容を決めることが可能です。

全員の合意を得たら、遺産分割協議書という書面を作成し、相続人全員の署名と捺印を行います。遺産分割協議書には、相続人全員の印鑑登録証明書を添付する必要があります。

遺産分割協議は、適切な準備と協議を通じて、円滑に進めることができます。各ステップをしっかりと踏まえて進めていきましょう。

話し合いで合意できない場合は遺産分割調停に進む

相続人同士で遺産の分け方について合意が得られない場合や、揉め事が生じた場合は、遺産分割調停を利用して解決を図る必要があります。

遺産分割調停では、中立な立場にある調停委員が間に入り、遺産分割における妥協点を見つけていきます。もし調停でも合意に至らない場合は、審判に移行し、法的に遺産分割の決着をつけることになります。

調停には時間と手間がかかるため、問題が生じそうな場合は早い段階で弁護士に相談し、話し合いに参加してもらうと、遺産分割協議をスムーズに進めることができます。

まとめ

この記事では、遺産分割協議に関する期限について解説しました。

遺産分割協議自体には法的な期限がなく、いつまでに実施しなければならないという時効は存在しません。しかし、以下のような「他の期限や消滅時効」があるため、できるだけ早めに遺産分割協議を行うことが望ましいです。

損をせずに遺産を受け取りたい方は、他の相続人や包括受遺者(遺言がある場合)と早めに話し合いを持ち、協議を完了させるよう心がけましょう。

また、納得していない相続人がいるなど、遺産分割協議が難航しそうな場合は、早めに弁護士に相談することをお勧めします。これにより、問題を未然に防ぎ、スムーズな相続手続きが可能となります。

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この記事を書いた人

弁護士|注力分野:相続

現在は立川の支店長弁護士として相続分野に注力して奮闘しております。今後も相談者の心に寄り添い、活動していく所存です。どのような法律問題でも、お気軽にご相談ください。

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