名家の長男と結婚して「嫁ぐ」ことになった女性にとって、夫の家族が自分を尊重し、対等に扱ってくれるかどうかは大きな不安要素でしょう。特に、「長男の嫁」は夫の両親の世話をすることが期待されがちです。
原則として、配偶者の父母の遺産を相続する権利は、夫にも妻にもありません。妻が夫の両親(義両親)をどれだけ献身的に介護しても、その事実だけで遺産を相続する権利は得られません。特に、夫が義両親よりも先に亡くなった場合、妻が世話をしていたにもかかわらず、遺産は夫の兄弟姉妹などに渡るため、不満を感じる女性も多いでしょう。
本コラムでは、法定相続人ではない「長男の嫁」が遺産を相続するために知っておくべきことについて、弁護士が詳しく解説します。
長男の嫁は法定相続人になるのか?
長男の嫁は、嫁入り後に家業を手伝い、義父母の介護を献身的に行うことが多くあります。そのため、義父母が亡くなった際には、当然遺産相続できると思われがちです。
実は、長男の嫁には本来相続権が認められていません。民法に基づく法定相続人は以下の通りです。
◆配偶者
常に法定相続人となります。
◆第1順位
子ども。長男が生きていれば、第1順位の法定相続人として遺産を相続できます。しかし、長男が既に亡くなっている場合、長男もその嫁も相続権はなく、他の子ども(長男の兄弟姉妹)が相続します。ただし、長男の子ども(被相続人の孫)がいる場合には、孫が「代襲相続」することができます(詳細は後述)。
◆第2順位
親。長男が義両親より先に亡くなっている場合、義両親の親(長男の祖父母)が生きていれば、その人が相続人となります。
◆第3順位
兄弟姉妹。長男および義両親の親が先に亡くなっている場合、義両親の兄弟姉妹(長男の叔父叔母)が相続人となります。
このように、長男の嫁が義両親と共に生活し、献身的に面倒を見てきた場合でも、遺産相続は義両親とほとんど関わりのなかった長男の叔父叔母が行うことになる可能性があります。
長男の嫁としては納得できないでしょうし、亡くなった義両親もこのような結果を望んでいないことがあるでしょう。
長男の嫁にも財産を受け継ぐ方法はあります!
長男の嫁に寄与分は認められるのか
寄与分とは、遺産の維持や形成に特別な貢献をした相続人がいる場合、その相続人の遺産取得分を増やす制度です。
長男の嫁が義両親と同居し、家業を手伝ったり、認知症にかかった義両親の介護を行ったりすることで遺産の維持や形成に貢献することは多いです。このような場合、長男の嫁に「寄与分」が認められるのでしょうか?
平成30年以前は、長男の嫁に寄与分は認められていませんでした。しかし、平成30年7月の法改正により、被相続人の介護や看病に貢献した「親族」に「特別寄与料」として金銭請求権が認められるようになりました。ただし、法改正によっても法定相続人としての地位を得られるわけではないため、長男の嫁が遺産分割協議に参加することはできません。
長男の嫁に遺産を残す方法
長男の嫁に遺産を残すための方法にはいくつかあります。以下にその方法を解説します。
①遺言で残す
遺言とは、人が最終の意思を文書で残すことです。遺言内容は法定相続に優先するため、法定相続人でない人にも遺産を残すことが可能です。遺言によって、特定の資産を長男の嫁に残すことや、「〇割を遺贈する」といった包括的な遺産の受け渡しが可能です。
包括的遺贈の場合、長男の嫁は遺産分割協議に参加し、他の相続人と話し合う必要があります。遺産トラブルを避けるためには、特定の遺産を指定する特定遺贈が望ましいでしょう。
遺言には、自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類があります。自筆証書遺言は簡単に作成できますが、無効になるリスクが高いため、特に同居している長男の嫁に遺贈する内容の場合にはトラブルが起きやすいです。したがって、公正証書遺言を利用することをおすすめします。
遺言を作成する際には、遺留分にも注意が必要です。兄弟姉妹以外の法定相続人には遺留分が認められており、これを侵害しないように配慮する必要があります。
②養子縁組を活用する
長男の嫁には遺産相続権がありませんが、養子は「子ども」として相続権を有します。義両親と長男の嫁を養子縁組することで、長男の嫁に遺産を相続させることができます。養子も実子も相続権の内容や範囲は同じです。
ただし、長男の嫁が法定相続人となるため、遺産分割協議に参加する必要があります。他の相続人が反発する可能性があり、遺産分割協議が難航することもあります。
③生命保険の受取人
生命保険を利用して長男の嫁に財産を残す方法もあります。
被相続人が生命保険に加入し、死亡保険金の受取人を長男の嫁にしておくことで、長男の父母が死亡した際に、長男の嫁が死亡保険金を全額受け取ることができます。死亡保険金は遺産に含まれないため、他の相続人に渡す必要がなく、遺産分割協議にも参加する必要がありません。
ただし、死亡保険金には相続税が課税されるため、注意が必要です。
④生前贈与
生前贈与とは、被相続人が生きている間に財産を贈与することです。
贈与の対象資産には制限がなく、どのようなものでも贈与できます。生前贈与した財産は遺産分割の対象とならず、確実に長男の嫁のものとなります。
ただし、生前贈与には「贈与税」がかかります。長男の嫁に生前贈与する場合には、養子縁組をした上で贈与するか、毎年110万円以内を継続的に贈与する方法が良いでしょう。贈与税には基礎控除があり、毎年110万円までの贈与分は無税となります。
⑤孫への代襲相続
長男が父母より先に死亡していても、長男の子ども(孫)が生きている場合、孫は「代襲相続人」として祖父母の遺産を相続できます。代襲相続人は被代襲相続人の地位を引き継ぎ、法定相続割合も同様です。孫が複数いる場合には、長男の法定相続分を孫の人数で分割します。
長男の嫁自身は相続できなくても、孫が相続することで、家族としては遺産を取得できます。ただし、長男の嫁と孫は別人格であるため、「孫が相続するからいい」と割り切るのは難しい場合もあります。
⑥複数の方法を組み合わせて効果的に財産を移転する
長男の嫁が遺産を相続するための方法はいくつかありますが、複数の方法を組み合わせることでより効果的に財産を移転することができます。
養子縁組との組み合わせ
例えば、養子縁組を行った上で、次のような方法を組み合わせることが考えられます。
- 生前贈与:養子縁組後に長男の嫁に生前贈与を行います。
- 遺言:長男の嫁に多く相続させる旨の遺言を作成します。
- 生命保険:長男の嫁を受取人とする生命保険を契約します。
特に生前贈与を行う際には、遺言によって「特別受益の持ち戻し免除」の意思表示をしておくと良いでしょう。これにより、他の相続人が「特別受益」を主張して長男の嫁の相続分を減らすことを防げます。
生命保険との組み合わせ
生命保険を活用する方法も有効です。例えば、次のように組み合わせます。
- 生命保険と生前贈与:贈与税や相続税を節税しながら、長男の嫁に財産を移転することができます。
- 生命保険と遺言:遺言と組み合わせることで、より多くの遺産を長男の嫁に残すことが可能です。
ご希望通りに財産を残すためには専門家に相談を
長男の嫁には遺産相続権がないため、何も対策を講じなければ姑や舅の遺産を受け継ぐことはできません。遺言、養子縁組、生前贈与などを効果的に組み合わせて利用するためには、専門家である弁護士のサポートを受けることが重要です。
琉球法律事務所では、遺産相続に関するご質問やご相談を承っております。将来遺産を受け取れないのではないかと不安な方や、遺産相続権のない方に財産を効果的に承継させたい方は、ぜひ早めにご相談ください。