事業承継は、企業が継続して発展していくための重要な節目となります。
新たな経営者に事業を引き継ぐ前に、まずリスクや留意点を明確に整理することが必要です。特に「人(経営)」「資産」「知的資産」に分けてトラブルになりやすいポイントを把握し、事前に対策を講じることが望ましいでしょう。
企業の状況はさまざまで、自社の課題を正確に理解していない経営者も少なくありません。また、事業承継を後回しにしてしまうと、短期間での実施を余儀なくされ、トラブルのリスクが高まることもあります。
この記事では、事業承継に伴う様々なトラブルの事例と、その対策や解決方法について詳しく解説しています。トラブルを未然に防ぐための一助となれば幸いです。
【事業承継におけるトラブル事例と対策】
事業承継のパターンは主に以下の3つに分けられます。
- 親族内承継
- 親族外承継
- M&A
ここでは、それぞれのパターンごとに発生しやすいトラブルとその対策について解説します。
親族内承継におけるトラブルと対策
日本政策金融公庫が2019年に行った調査によれば、中小企業の多くが実子や義理の子供などの親族に事業を承継しています。しかし、親族内での承継には、現経営者の資産を相続する際のトラブルリスクも伴います。
トラブル事例1:高額な自社株取得の負担で事業継続が困難に
親族内承継では、現経営者がオーナーを兼ねて自社株式の多くを保有していることが多く、その評価額が高いと相続時に大きな負担が発生します。結果として、後継者が自社株を買い取る資金不足に陥り、事業継続が困難になることがあります。
対策
自社株の評価額を抑えるための施策を検討し、評価が過度に高まらないように事前の対策を講じることが重要です。
トラブル事例2:株式の分散が意思決定に影響
オーナーが遺言を残さずに死亡し、株式が配偶者と複数の子供に分散されると、経営に関与しない親族にも拒否権が生まれることがあります。その結果、後継者が自由に事業運営を行えず、企業に悪影響を及ぼすことがあります。
対策
暦年贈与を活用して後継者に少しずつ株式を譲る、または遺言で相続分を明確にしておくなどの準備を行いましょう。
親族外承継におけるトラブルと対策
親族外承継とは、自社の役員や従業員、あるいは外部の経営者に事業を引き継ぐケースです。近年、中小企業でも親族内に適任者がいない場合、親族外承継が増加しています。
トラブル事例3:取引先の離反
事業承継を契機に、取引先が離れてしまうケースも少なくありません。特に、先代経営者との関係性が強い取引先では、経営者交代がきっかけで取引を中止されることがあります。
対策
後継者を取引先に紹介し、信頼関係を築くことが重要です。また、引き継ぎの際に先代経営者からの十分な根回しを行い、経営資源の移行を円滑に進めましょう。
トラブル事例4:後継者への引き継ぎが不十分
経営状況の把握や取引先との関係維持に苦労し、後継者への引き継ぎが不十分なケースも見られます。社外から後継者を招く場合は特にこの問題が顕著です。
対策
後継者への教育と綿密なコミュニケーションを心がけ、経営理念や方針の共有を徹底することが重要です。
本記事では、事業承継の際に生じるさまざまなトラブルの事例と、その対策や解決方法について詳しく解説しています。事業承継を円滑に進めるために、ぜひお役立てください。
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M&Aにおけるトラブルとその対策
適任の後継者が身近にいない場合、M&Aを選択することもあります。これは事業を継続し、従業員の雇用を守るための有効な手段ですが、信頼できる第三者に事業を譲渡または売却する際には予期しないトラブルが発生する可能性もあります。
トラブル事例5:着手が遅れたため、M&Aが不成立に
ある企業では、経営者が高齢で後継者が見つからず、M&Aを検討していました。しかし、日常業務に追われて後継者問題の対応を先延ばしにしているうちに、事業は借入金に頼る状態で業績が悪化。ようやくM&Aに関心を示すパートナーが現れた時には、すでに企業の活気が失われ、交渉は不調に終わってしまいました。
対策
M&Aのプロセスには、買い手との出会いや交渉に数カ月から1年ほどかかることがあります。そのため、M&Aを決断するタイミングが遅れるほど、選択肢が減少するリスクがあることを認識することが大切です。早期に検討を開始し、決断を先延ばしにしない姿勢が求められます。
事業承継でトラブルを回避するためのポイント
事業承継の形態によって発生するトラブルは異なりますが、共通して有効な対策や注意点は以下の通りです。
- 早期に着手し、計画的に進める
- 適切な後継者を選定する
- 後継者に対して十分な教育を施す
- 生前贈与や遺言書を活用して相続トラブルを未然に防ぐ
- 信頼できる専門家を見つけておく
以下、それぞれについて具体的に解説します。
どのくらい早めに着手するべき?
事業承継は、5〜10年かけて取り組むべき長期的なプロジェクトです。後継者選定はすぐに決まるとは限らないため、早めの行動が重要です。後継者が決まった場合でも、社内で十分な実務経験を積ませ、経営者としての自覚を育てるには時間が必要です。
事業承継計画書の作成を専門家とともに進めると、以下のような利点があります。
- 社内の知的資産の可視化
- 事業承継税制の特例措置の申請に活用できる可能性
- 後継者や従業員、取引先からの信頼の確保
事業承継の計画方法については、関連するガイド記事も参考にしてください。
継続・成長できる後継者を選ぶポイントは?
後継者には、経営者としての資質を持った人物を選ぶ必要があります。次の4つのポイントで適任者を判断すると良いでしょう。
- 経営ビジョンが明確である
- 組織を率いて従業員を守る覚悟がある
- 事業成長への意欲にあふれている
- 十分な実務能力がある
複数の候補者がいる場合、評価基準を設定して選考を進めることで、後継者選定による対立を防ぎます。また、予期しない状況が発生する前に後継者を確定することが大切です。
後継者の教育方法は?
後継者が新たな経営者として適切に会社を運営できなければ、業績の悪化を招きかねません。後継者には十分な教育期間を設け、経営理念や価値観を共有することが重要です。
後継者教育には、次のステップを含めると効果的です。
- 営業、労務管理、財務など主要部門を経験させ、業務プロセスを理解させる
- 経営上の意思決定や対外交渉を徐々に任せ、責任感を育む
- 現経営者から直接指導し、経営情報や知的資産を確実に引き継ぐ
相続トラブルを防ぐための遺言書とは?
相続を巡る親族間のトラブルを防ぐには、生前贈与を活用して相続時の財産を減らしておく、または遺言書で相続方針を明確に示すことが重要です。急病や急逝に備え、遺言書の作成には早めに着手することをおすすめします。
主な遺言書の形式には次の3つがあります。
- 自筆証書遺言: 手軽に作成できるが、紛失のリスクや争いの可能性も。
- 公正証書遺言: 公証人によって作成されるため、確実性が高くトラブルも少ないが、費用がかかる。
- 秘密証書遺言: 内容を秘密にできるが、実務上あまり利用されていない。
信頼できる専門家はどのような人がいる?
事業承継をスムーズに進めるためには、信頼できる専門家をあらかじめ見つけておくことが重要です。例えば、以下の専門家がサポートできます。
- 商工会議所や商工会による中小企業の経営相談
- 税理士、弁護士、公認会計士、中小企業診断士といった専門家
- 「事業引継ぎ支援センター」や「よろず支援拠点」などの公的機関
専門家のサポートを得ることで、事業承継の計画策定が円滑に進みます。専門家の選び方については、関連する解説記事もご覧ください。