家族信託を成功させるための手続きとコツを、弁護士が解説!

家族信託を検討する際には、まず家族全員でしっかりと話し合い、同意を得ることが重要です。本記事では、家族信託の手続きを進める具体的な流れを解説し、個人で手続きを行う場合のメリット・デメリットと、専門家に依頼した際の費用相場についても詳しく説明します。

目次

家族信託を始める前に決めておくべきこと

家族信託を利用する前に、家族全員で話し合い、以下のポイントについて決めておくことをお勧めします。

家族信託の目的を明確にする

まず最初に考えるべきは「家族信託の目的」です。家族の状況や構成、財産の種類によって、信託の目的は異なります。家族でしっかり話し合い、自分たちの目的をはっきりさせてから次のステップに進みましょう。

信託する財産を決定する

信託の目的が決まったら、次に信託する財産を選びます。信託の対象になり得るのは、現金や預金、株式、不動産などです。管理や運用を委ねる財産を決めることは非常に重要な課題であるため、家族全員が納得するまで十分に話し合いましょう。

信託の管理方法とその後の処理を決める

信託する財産が決まったら、信託契約の詳細について考えます。具体的には以下の点です

  • 誰を受託者にするか(財産の管理や運用を任せる人)
  • 誰を受益者にするか(財産の運用による利益を受け取る人)
  • 受託者の行動を監督する「受託者管理人」を決めるかどうか
  • 受託者が亡くなった場合の対応
  • 委託者兼受益者が亡くなった後の財産の処理

信託の目的を達成するために、財産の管理方法や将来の取り扱いについて具体的に決めておくことが大切です。また、受託者管理人を設けることで、信託財産の適正な管理を見守る役割を果たすことができ、不安を軽減する手段となります。家族の合意を得ながら、内容を慎重に決定することが最も重要です。

家族信託の内容を契約書に明記する

話し合いで決定した家族信託の内容を契約書に記載し、受託者に任せる財産やその範囲を明確にします。これにより、家族信託の効力が及ぶ範囲と、委託者や受託者の個人財産との区別がはっきりします。

家族信託に必要な書類

ここでは、委託者が受益者を兼ねる家族信託に必要な書類について説明します。信託の内容によって必要な書類は異なる場合がありますが、基本的には信託契約書を公正証書にする際に以下の書類を準備しておく必要があります。

  • 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
  • 受託者および受益者の印鑑証明書(発行から3ヶ月以内のもの)
  • 受託者および受益者の実印
  • 信託する財産に関する資料(不動産の場合は登記事項証明書など)
  • 戸籍謄本または抄本

不動産を信託の対象にする場合は、不動産の「登記事項証明書(登記簿謄本)」が必要です。また、不動産の価格証明として、「固定資産税評価証明書」や「固定資産税課税明細書」も用意しておくとよいでしょう。さらに、家族関係を証明するための戸籍謄本または抄本も求められます。

不動産を家族信託する場合の登記に必要な書類

不動産(土地や建物)を家族信託する場合は、不動産の名義を委託者から受託者に変更するための登記手続きが必要です。登記が完了すると、信託の内容を記載した「信託目録」が作成されます。

登記の際に一般的に必要とされる書類は以下の通りです。ただし、状況によっては追加の書類が求められることもあります。

  • 発行から3ヶ月以内の委託者の印鑑証明書
  • 登記済証または登記識別情報
  • 委託者の実印
  • 委託者および受託者の本人確認書類(運転免許証など)
  • 受託者の住民票
  • 受託者の認印

不動産を取得した際に発行される「登記識別情報」(旧「登記済証」、いわゆる「権利証」)は大切に保管する必要があります。しかし、取得から数年経って紛失してしまうことも少なくありません。登記識別情報は再発行されませんが、紛失しても専門家に依頼することで信託登記の申請が可能です。紛失に気づいたら、まず専門家に相談することをお勧めします。

家族信託の手続きの主な4つのステップ

家族信託の契約手続きの流れを以下の4つのステップに分けて解説します。まず、家族信託の内容を決定し、それを契約書に反映させます。可能であれば公正証書として公証役場で認証を受け、契約書を作成した後は、財産の名義を委託者から受託者に移し、最後に財産管理のための専用口座を開設します。

ステップ1:家族信託の内容を話し合い、合意を得る

最初のステップは、家族全員で話し合い、家族信託の目的を明確にすることです。家族信託の目的には、認知症対策、財産の分配、障がいのある子どもの生活支援など、さまざまなケースがあります。重要なのは、信託契約に関わらない家族の意見も含めて全員で合意を得ることです。これにより、後々のトラブルを防ぎ、円滑な手続きを進めることができます。専門家に相談している場合は、専門家の助言を受けながら話し合いを進めることが一般的です。

ステップ2:決定した内容を契約書に反映させる

話し合いで決まった内容に基づいて、信託契約書を作成します。契約書にはできるだけ具体的な表現を用い、解釈の余地がないようにします。契約書の内容に疑問がある場合や、登記や税務上の問題がないか確認する際には、専門家に相談すると良いでしょう。作成した契約書を公正証書として公証役場で認証を受けることで、トラブル防止の効果が期待できます。

ステップ3:財産の名義を委託者から受託者へ変更する

契約書の作成が完了したら、財産の名義を委託者(親)から受託者(子)に移します。名義変更の手続きは、財産の種類によって異なります。例えば、不動産が含まれている場合、法務局で信託登記を行い、所有権を委託者から受託者に移転します。また、信託財産を一覧にした「信託目録」の作成も必要です。

ステップ4:財産管理のための専用口座を開設する

現金や預金が信託財産である場合、それらを管理する専用の口座を開設し、信託財産をその口座に入金して管理します。これにより、信託財産の管理が明確になり、適切な管理が行われることを確保できます。

家族信託の「30年ルール」

家族信託は新しい財産管理の方法であり、今後の法改正や判例の変化により、契約内容の見直しが必要になる場合があります。その際には、家族信託を依頼した専門家に相談することをお勧めします。

また、家族信託には「30年ルール」という有効期間が設けられている点も重要です。このルールは「信託開始から30年経過後、受益者が死亡した時点で信託が終了する」というものです。つまり、信託の効果は永久に続くわけではありません。

遺言代用信託と信託宣言型の家族信託

「遺言代用信託」という家族信託の形もあります。これは、遺言の代わりとして利用できる信託です。委託者が生前に受託者と信託契約を結ぶ点は通常の家族信託と同じですが、委託者の死亡後に指定された人物に受益権が移る仕組みとなっています。この方式は、委託者が亡くなった後も子どもや配偶者の生活を守りたいという希望を実現するために用いられることが多いです。

また、家族信託には「信託宣言」という形もあり、これは委託者自身が受託者となる方法です。信託宣言の目的は、信託した財産を委託者の個人財産から切り離す「倒産隔離機能」を持たせることです。これにより、仮に委託者が自己破産したとしても、信託財産は保護されます。ただし、債権者の権利を阻害する目的で行われた場合、この機能が認められない可能性があります。

家族信託を個人で行うメリット

家族信託は専門家に依頼するケースが多いですが、個人で行うことも可能です。以下に、専門家に依頼せずに自分で家族信託を行うメリットを紹介します。

コストを抑えられる

家族信託を個人で行うことで、専門家に支払う相談料や契約書作成費用、コンサルティング料などが不要になり、費用を大幅に削減できます。個人で信託を行う場合の費用は、交通費や印紙代、公正証書作成手数料などの実費だけで済みます。

ただし、不動産が信託財産に含まれている場合、登記の際に「登録免許税」が必要となります。これは、不動産の課税価格の1000分の4に相当する金額です(例:課税価格が1000万円の不動産の場合、4万円の登録免許税)。なお、2023年3月31日までは、土地に関する登録免許税は1000分の3に軽減されていますので、注意が必要です。

プライバシーを守れる

自分で家族信託を行う場合、家族のプライバシーを他人に公開する必要がありません。専門家に依頼する場合、家族構成や財産の内容、財産管理方法、相続意向などの詳細を開示する必要があります。専門家には守秘義務があるため情報が外部に漏れることはありませんが、それでもプライバシーの公開に抵抗を感じる方もいるかもしれません。

家族信託を個人で行うデメリット

家族信託は個人で手続きを進めることが可能ですが、専門家を介さない場合には、トラブルに発展するリスクが高くなることもあります。知識が不十分なまま進めると、後に問題が発生する可能性があるため注意が必要です。

信託契約は非常に複雑であるため、「問題ないだろう」と油断せず、法律や税金に関する知識を確実に持ち、慎重に手続きを進める必要があります。現時点では最善と思われる方法が、将来的には問題を引き起こす可能性もあるため、あらゆるリスクを十分に検討することが重要です。

契約書の不備による無効のリスク

家族信託に関する問題が発覚するのは、何かトラブルが発生した時です。トラブルが生じてから信託契約の内容を変更しようとしても、既に手遅れである場合があります。

例えば、契約書に不備があるまま進め、委託者が認知症になった後では、家族信託契約を新たに結ぶことができなくなり、対処法がなくなってしまうこともあります。

家族間のトラブルに発展する可能性

家族信託の契約書が偽物だと疑われるリスクもあります。例えば、父親が委託者で長女が受託者となる信託契約を父親と長女だけで進めてしまうと、他の家族が不信感を抱く可能性があります。その結果、信託契約書が完成しても、他の家族が内容に納得せず、委託者の死後に「契約書は偽物だ」と主張されるなど、トラブルに発展するリスクがあります。

将来的なトラブルを防ぐためにも、家族信託の手続きを知識と経験の豊富な専門家に依頼し、第三者の立場から公正に進めてもらうことをおすすめします。

家族信託を専門家に依頼した場合の費用相場

家族信託を司法書士や弁護士などの専門家に依頼した場合の費用は、通常50~100万円程度が相場です。具体的な内訳は以下の通りです。

  • 相談・コンサルティング料: 30~80万円(信託財産の価格に応じて、1億円以下の場合は1%、1億円超~3億円以下の場合は0.5%)
  • 公正証書作成費用: 10~15万円
  • 公正証書作成手数料: 3~10万円(契約内容や信託財産額により変動)
  • 登録免許税(信託財産に不動産が含まれる場合): 不動産価格の1000分の4
    ※2023年3月31日までは土地については1000分の3に軽減

また、専門家に信託登記を依頼する場合は、別途報酬が発生します。専門家ごとに費用は異なりますが、一般的には最低でも10万~15万円ほどかかることを見込んでおく必要があります。

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家族信託でかかる可能性がある税金

家族信託に関わる税金について説明します。

贈与税

委託者以外の人物が受益者となる場合、贈与税が発生することがあります。

例えば、Aさんが息子のBさんを受託者にし、自分の所有するマンションを信託したとします。この際、Aさんが姪のCさんを受益者に指定した場合、Cさんはそのマンションから発生する家賃収入などを受け取ることになります。法的には、AさんがCさんに利益を「贈与」したと見なされるため、Cさんには贈与税が課されます。贈与税は利益を受け取る側が負担するため、委託者以外を受益者に設定する場合は、贈与税についても十分に考慮しておきましょう。

相続税

家族信託では、委託者が受益者を兼ねるケースが多く見られます。これは、贈与税の支払いを避けるためです。しかし、委託者の死亡後に相続人が受益権を引き継ぐ場合、その受益権には相続税がかかります。家族信託を行った財産が相続税の対象外になるわけではない点に注意が必要です。

所得税・法人税

受益者が受益権を売却した場合、その売却益に対して所得税が課されます。もしも受益者が法人であれば、法人税も発生することになります。

登録免許税

不動産を信託する際には、法務局で「信託による所有権移転登記」を申請する必要があります。この登記手続きにより、不動産の名義が委託者から受託者に変更され、信託内容が登記簿に記載されます。

この登記には「登録免許税」がかかります。不動産の信託による所有権移転登記の場合、不動産の課税価格の1000分の4が税金として法務局に納められます。ただし、2023年3月31日までは、土地の移転登記については税率が1000分の3に軽減されています。

固定資産税

不動産を家族信託する場合、固定資産税の負担も考慮する必要があります。固定資産税は「所有権登記名義人」が支払う税金です。

家族信託により不動産の名義が委託者から受託者に変わるため、次年度以降、受託者に固定資産税の納税通知書が届きます。受託者は、名義上の所有者となっているため納税義務を負うことになります。しかし、受託者は実際には委託者の財産を管理する立場であり、その負担に不満が生じる可能性があります。不動産を信託する際には、固定資産税を誰が支払うのか、家族で話し合っておくことが重要です。

家族信託の専門家を選ぶポイント

家族信託を依頼する専門家選びは重要です。家族信託は比較的新しい財産管理の方法であり、この分野に精通した専門家は限られています。信頼できる専門家を見つけるには、まずその実績を確認することから始めましょう。豊富な経験があれば、依頼者はより安心でき、手続きもスムーズに進むでしょう。

弁護士 御厨

家族信託は、委託者の意思に基づいた柔軟な財産管理や承継を可能にしますが、誤った使い方をするとトラブルの原因にもなりかねません。家族の安定と安心を守るため、専門家の助けを借りながら、慎重に家族信託を進めることが大切です。

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この記事を書いた人

弁護士|注力分野:相続

現在は立川の支店長弁護士として相続分野に注力して奮闘しております。今後も相談者の心に寄り添い、活動していく所存です。どのような法律問題でも、お気軽にご相談ください。

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