遺産相続には多くの手続きが伴い、それぞれに時間と費用がかかります。本項目では、4つの財産種類に焦点を当て、相続手続きにかかる費用の相場や必要書類の取得費用について詳しく解説します。
不動産の相続登記にかかる費用
不動産の売買、贈与、または相続による所有権の移転(名義変更)を行う場合、「所有権移転登記」という手続きが必要です。この登記手続きには、法務局や管轄の役所など複数の機関から必要書類を取得し、不動産の所在地を管轄する法務局で手続きを行います。
相続登記に必要な書類一覧
法定相続人が1名、または法定相続分で相続する場合に必要な書類は以下の通りです。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 法定相続人の戸籍謄本
- 法定相続人の住民票
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の除附票
- 相続する不動産の固定資産税評価証明書
遺産分割協議で決まった割合で相続する場合には、上記に加えて以下の書類も必要です。
- 法定相続人の印鑑証明書
- 遺産分割協議書
登記費用の詳細
不動産の登記は司法書士に依頼することができ、費用は不動産の件数によって異なりますが、一般的には5万円〜10万円程度です。この費用とは別に、登録免許税や登記事項証明書の発行費用、固定資産税評価証明書の取得費用、郵送費用などもかかります。
登録免許税は登記手続きの際に国に納める税金で、税額は不動産の評価額(固定資産税評価額)に基づき計算されます。土地と建物の所有権移転登記の税率はともに0.4%です。
預貯金の相続手続きにかかる費用
故人名義の銀行口座は、法定相続人(民法で定められた相続人)が申請することで名義を変更し、引き継ぐことが可能です。ただし、預貯金も相続財産に含まれるため、遺言書がない場合は遺産分割協議を行い、相続する人とその割合を決める必要があります。この際、金融機関で口座の名義変更や解約を申請するには、遺産分割協議書の提出が求められます。
名義変更に必要な書類
金融機関によって異なる場合がありますが、一般的には以下の書類が必要です。
- 預金名義書換依頼書・相続届(金融機関が提供)
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 故人の預金通帳、キャッシュカード、証書
- 手続きを行う人の実印
- 故人の届け出印
- 遺産分割協議書または相続人全員の同意書、遺言書
名義変更の手続きは、専門家に依頼することができ、報酬は1件あたり2万円〜10万円ほどです。
有価証券の相続手続きにかかる費用
上場株式を相続する場合、相続人は故人の取引口座がある証券会社や信託銀行に届け出を行い、自分の口座に振替(名義変更)することが可能です。手続きの際には、遺産分割協議書を添付する必要があります。一方、非上場株式を相続する場合は、株式発行会社に相続を申し出て株主名簿の書き換えを行う必要があります。
これらの手続きも、行政書士、弁護士、司法書士に依頼することが可能で、報酬は1件あたり2万円〜10万円程度です。
自動車の相続手続きにかかる費用
故人が所有していた自動車を相続する場合、相続人は車の使用継続、売却、または廃車に関わらず、名義変更の手続きが必要です。名義変更手続きは、必要書類をそろえて地域の運輸支局で行います。自動車の相続手続きにかかる費用は以下の通りです。
- 移転登録手数料:500円
- 車庫証明取得費用:2,500円〜3,500円(都道府県ごとに異なる)
- ナンバープレート代:1,500円前後(地域による。ナンバー変更がない場合は不要)
- 自動車取得税:車種、グレード、経過年数によって異なる
- 名義変更代行料:自分で手続きを行う場合は不要
運輸支局は平日の限られた時間しか営業していないため、手続きに出向くことが難しい場合、行政書士や司法書士に代行を依頼することができます。報酬の相場は2万円〜5万円程度です。
すべての相続手続きで必要な費用
銀行口座、有価証券、不動産、自動車など、名義変更の手続きは異なる場所で行われますが、多くの手続きで共通して提出が求められる書類もあります。例えば、戸籍謄本や住民票は多くの手続きで必要となり、市区町村役場で取得できます。取得手数料は誰が申請しても同じです。
戸籍謄本の取得にかかる費用
戸籍謄本は、法定相続人を確認するための重要な書類であり、ほとんどの相続手続きで必要です。戸籍謄本(全部事項証明書)や戸籍抄本(個人事項証明書)の取得手数料は、1通につき450円です。
戸籍謄本と戸籍抄本の違い
戸籍謄本は、戸籍に記載されている全員の身分事項を証明するもので、戸籍抄本は特定の個人または複数人の身分事項を抜粋して証明するものです。どちらも相続手続きで利用されますが、証明される内容に違いはありません。
除籍謄本の取得費用
除籍謄本とは、死亡、結婚、離婚などでその戸籍に記載されている全員が抜け、戸籍が閉鎖された状態のものです。除籍謄本(全部事項証明書)および除籍抄本(個人事項証明書)を取得する際の手数料は、1通につき750円です。
改製原戸籍の取得費用
現在の戸籍制度は、いくつかの改正を経て確立されました。役所にデータとして保管されているものが「現在戸籍」であり、以前の紙の戸籍簿が「改製原戸籍」です。改製原戸籍には、現在戸籍に転記されていない情報が含まれることがあるため、相続手続きで被相続人の出生から死亡までの戸籍を揃える必要がある場合に、必要とされることがあります。取得費用は1通につき750円です。
戸籍の附票の取得費用
戸籍の附票は、本籍地の市区町村で戸籍の原本と一緒に保管されている書類で、その戸籍が作成されてから(またはその戸籍に入籍してから)現在に至るまで(またはその戸籍から除籍されるまで)の住所が記録されています。取得手数料は1通につき300円〜350円で、市区町村によって異なります。
住民票除票の取得費用
住民票除票とは、引越しや死亡などで住民登録が抹消された後の記録です。転出届や死亡届の提出により、市区町村役場で住民登録が抹消されると、この「住民票除票」が作成されます。取得手数料は1通につき300円〜400円です。
住民票の取得費用
住民票は、住民の氏名、生年月日、性別、世帯主との関係、住所などの情報を記載したものです。住民票の写しを取得する際の手数料は1通につき300円〜400円です。
印鑑登録証明書の取得費用
印鑑登録証明書は、登録された印鑑が書類に捺印されたものと同じであることを証明する書類です。取得手数料は1通につき300円です。
相続手続きの依頼先と選び方
相続手続きを進める際、どの専門家に相談するべきか迷うことがあるでしょう。すべての相続手続きに専門家の助言が必要なわけではありません。まずは、どのような状況で専門家に相談すべきかを把握しましょう。
相続に関わる専門家には、弁護士、税理士、司法書士、行政書士などがいます。それぞれの専門家は、特定の業務に対応しており、相談内容に応じて適切な専門家を選ぶ必要があります。
専門家の対応範囲
相談内容 | 弁護士 | 税理士 | 司法書士 | 行政書士 |
---|---|---|---|---|
不動産名義変更(相続登記) | × | × | 〇 | × |
金融機関での相続手続き | 〇 | △ | 〇 | 〇 |
相続での紛争解決 | 〇 | × | × | × |
遺産分割協議書の作成 | 〇 | △ | 〇 | 〇 |
遺言書作成 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
相続税申告 | × | 〇 | × | × |
相続放棄 | 〇 | × | 〇 | × |
相続人調査 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
相続のトラブルには弁護士
弁護士は、金融機関での相続手続きからあらゆる相続関連の法律問題まで幅広く対応できます。代理権を持ち、遺産分割の交渉や調停に臨むことも可能です。トラブルの可能性がある相続手続きでは、弁護士に依頼するのが安心です。
相続税などの税金関連は税理士
税理士は税金の専門家で、相続税の申告ができるのは税理士のみです。相続税が多額になる場合や節税を考えている場合、税理士に相談するのが最適です。
不動産登記が必要なら司法書士
司法書士は、不動産の相続登記手続きの専門家です。不動産の所有名義の移転や、担保の抹消登記が必要な場合に依頼できます。
書類作成や名義変更手続きなら行政書士
行政書士は、相続人調査や金融機関での手続き、各種証明書類の作成、遺産分割協議書の作成などのサポートを行います。書類作成の代行やアドバイスだけで十分な場合には、行政書士への依頼が適しています。
それぞれの専門家の詳細な業務内容や選び方については、下記の情報をご覧ください。専門家への相談を検討している方は参考にしてください。
遺産相続にはさまざまな手続きが伴い、それぞれに費用がかかります。その中でも避けられないのが、戸籍謄本や住民票、印鑑証明書などの書類取得にかかる手数料です。個々の費用は比較的少額でも、複数の手続きが重なると予想以上に費用がかさむことがあります。返却可能な書類は返却を依頼し、コピーで済むものはコピーで対応するなどの工夫が、手続きが多い場合には役立つでしょう。
また、必要な書類を揃えるだけでも相応の知識と労力が必要で、相続人の人数分の書類が必要になることもあります。こうした場面で困った場合は、相続の専門家に相談するのが安心です。専門家の中にも得意分野や経験の差がありますので、相続の実績が豊富な人を選ぶようにしましょう。