年金の支給停止手続きについて
年金は受給者が亡くなると相続の対象とはならず、年金受給の権利は消滅します。そのため、年金受給者が亡くなった際には、年金事務所または年金相談センターに「年金受給権者死亡届(報告書)」を提出する必要があります。
ただし、個人番号(マイナンバー)が日本年金機構に登録されている場合は、原則としてこの「年金受給権者死亡届(報告書)」の提出が省略されます。
手続きには、亡くなった方の年金証書や、除籍謄本や死亡診断書のコピーなど死亡を証明する書類が必要です。手続きの期限は、国民年金では死亡日から14日以内、厚生年金では10日以内となっています。
受給者が亡くなった際は、速やかに支給停止手続きを行いましょう。
未支給年金の請求手続きについて
亡くなった方の未支給年金があるかどうかを確認しましょう。公的年金の支給は2ヵ月ごとの後払いで行われるため、ほとんどの場合、未支給年金が発生しています。
未支給年金は、亡くなった方と生計を共にしていた遺族が請求できます。請求手続きは、年金事務所や年金相談センターで「未支給年金請求書」を提出することで行います。受給できる方は、亡くなった時点でその方と生計を共にしていた遺族であり、優先順位は以下の通りです:①配偶者、②子ども、③父母、④孫、⑤祖父母、⑥兄弟姉妹、⑦その他の順番。
未支給年金の請求手続きには、亡くなった方の年金証書、続柄を確認できる書類(戸籍謄本または法定相続情報一覧図の写しなど)、生計を共にしていたことを証明する書類(亡くなった方の住民票および請求者の世帯全員の住民票など)、および受取希望の金融機関の通帳が必要です。同一世帯でない場合は、「生計同一についての別紙の様式」も提出が必要となります。
国民年金(遺族基礎年金)の手続きについて
亡くなった方が国民年金の加入者であった場合、その方によって生計を維持されていた「18歳到達年度の末日までの子ども(障害がある場合は20歳未満)を持つ配偶者」または「子ども」が遺族基礎年金を受給できます。この年金は、子どもが18歳になる年度の3月31日(障害等級1級・2級の子どもは20歳)まで受給可能です。
「生計を維持されている」とは、同じ家計で生活していた方で、受給者の前年の収入が850万円未満、または所得が655万5000円未満であることを指します。
遺族基礎年金を請求するには、年金請求書(市区町村役場、年金事務所、または年金相談センター窓口にて入手)、亡くなった方の年金手帳、戸籍謄本や住民票、収入証明書、受取希望の金融機関の通帳などが必要です。
年金額(令和3年4月分以降)は「780,900円+子どもの加算」となっており、子どもの加算は、第1子と第2子がそれぞれ224,700円、第3子以降は74,900円となっています。受給額は毎年見直されるため、請求時に最新の情報を確認してください。
受給資格について
もし亡くなった方が令和8年4月1日以前に亡くなった場合、65歳未満で、死亡日前日までの1年間に保険料の未納がなければ、「遺族基礎年金」が受給できます。令和8年4月1日以降に亡くなった場合は、保険料納付期間が加入期間の3分の2以上であることが条件となります。
その他の支給金について
子どもがいない場合には遺族基礎年金は受け取れませんが、「死亡一時金」を受け取ることができます。国民年金第1号被保険者または任意加入被保険者として36カ月以上保険料を納付していた方が、老齢基礎年金や障害基礎年金を受給せずに亡くなった場合、その遺族が死亡一時金を受給できます。受給額は保険料納付期間に応じて12~32万円の範囲で決定されます。ただし、遺族基礎年金が受給できる場合は、死亡一時金は支給されません。
また、亡くなった方が第1号被保険者または任意加入被保険者で、保険料納付期間(免除期間含む)が10年以上ある場合、その妻(内縁の妻も含む)が生計を維持されていれば、60歳から65歳まで寡婦年金が支給されます。
労災保険の遺族年金について
労災保険の遺族年金は、①業務中の事故で亡くなった場合(遺族補償給付)や、②通勤途中で亡くなった場合(遺族給付)が対象となります。遺族補償給付には、「遺族(補償)年金」と「遺族(補償)一時金」の2種類があり、これらを受給するためには、労災保険に加入していることに加え、労災認定を受けていることが必要です。労災認定を受けていない場合は、専門家に相談することをお勧めします。
なお、労災保険の遺族年金を受給する際に、遺族基礎年金や遺族厚生年金を同時に受給できる場合、遺族年金の額が減額されることがあります。
遺族年金の請求手続きは、所轄の労働基準監督署長に必要書類を提出して行います。
年金の支払いは亡くなった月まで
年金の支払いサイクルについて
年金の支払いは、亡くなった月までが対象です。公的年金は、偶数月の15日に年6回に分けて支給されます。支払いは日割り計算されず、たとえ月の初日に亡くなってもその月の分は全額支給されます。
偶数月に亡くなると1ヵ月分(もしくは3ヵ月分)、奇数月に亡くなると2ヶ月分の未支給年金が発生することがあります。この未支給年金は、支払いがまだ行われていない分の年金を指します。
たとえば、4月10日に亡くなった場合は2月、3月、4月分が、4月20日に亡くなった場合は4月分が、5月20日に亡くなった場合は4月と5月分が未支給年金となります。
年金受給者が亡くなった際の手続き
年金受給者が亡くなった場合、遺族が受給権者死亡届を提出する必要があります。もし届の提出が遅れ、死亡日以降の年金が被相続人の口座に振り込まれた場合、その分を返却する必要があります。たとえば、4月30日に亡くなった場合、6月15日に4月分と5月分が振り込まれたら、5月分を返却しなければなりません。
未支給年金は相続財産に含まれません
未支給年金は、被相続人と生計を共にしていた人が請求する権利を持っています。そのため、未支給年金はその人の財産となり、相続財産には含まれず、一時所得として扱われます。この点については、平成7年11月7日の最高裁判決で判例が示されています。
未支給年金(障害厚生年金等)が相続財産となる場合とならない場合
以下は、障害厚生年金等の未支給年金が相続財産と見なされた事例と、見なされなかった事例の一例です。
相続財産になった事例
被相続人A様は長年ガンで入退院を繰り返しており、年金事務所に障害者年金の支給申請を行っていました。A様は令和3年3月に亡くなり、その後、3月15日に約700万円がA様の口座に振り込まれました。この場合、A様が生前に申請し、決定されて支給されたものであるため、相続財産に含められました。
相続財産にならなかった事例
B様は令和2年(2020年)12月に亡くなり、B様の母親の口座に障害厚生年金の未支給年金として約190万円が振り込まれました。このケースでは、未支給年金はB様の相続財産には含まれませんでした。
障害厚生年金が生前に支給されていれば、所得税法上非課税とされ、遺族が受け取る未支給年金も、厚生年金保険法の規定により非課税所得として扱われ、一時所得の対象にはなりません。障害厚生年金は非課税所得とされ、遺族の一時所得には含まれないと考えられます。
相続が発生すると、亡くなった方の年金の手続きが必要となります。
また、亡くなった方の収入で生計を立てている場合、遺族年金等の給付を受けられないと生活に支障が出てしまいます。
そのため、相続が発生したら、速やかに年金に関する手続きを行うようにしましょう。
分からないことや相続手続についても確認したいという場合は、ぜひ相続に詳しい弁護士にご相談ください。