遺言信託のトラブル事例5選!遺言信託メリット・デメリットを弁護士が解説

「遺言信託」という言葉を耳にしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。ご両親が高齢になり、相続の準備を考え始めている方や、自身の終活を検討している方にとって、有益な手段の一つです。

今回は、「遺言信託」に関する疑問や、申し込み方法、メリット・デメリット、そして起こり得るトラブルについて、詳しく解説します。

目次

遺言信託とは?

「遺言信託」とは、「遺言に基づく信託」のことを指します。ただし、一般的には、信託銀行や証券会社などの金融機関が遺言書の作成から保管、執行までを一貫してサポートするサービスのことを意味します。本記事では、このサービスに焦点を当てて説明します。

ここでは、遺言信託の基本的な手続きの流れや、その費用について詳しく見ていきましょう。

STEP
金融機関への相談

まず、遺言者は信託銀行や証券会社などの金融機関に相談します。ここで、遺言の内容について詳しく説明し、金融機関のスタッフと共に遺言書を作成します。スタッフのアドバイスを受けながら、遺言書の内容を完成させます。

STEP
公正証書遺言の作成

遺言書が完成したら、公証役場でその内容を公正証書として作成します。この作業は遺言者自身が行いますが、金融機関のスタッフが適宜サポートしてくれます。

STEP
遺言信託の申込み

公正証書遺言が完成した後、遺言者は金融機関に遺言信託を申し込みます。この際、金融機関との間で遺言信託契約を締結します。

STEP
相続の開始

遺言者が亡くなり、相続が開始されると、事前に指定した死亡通知人が金融機関に通知します。これを受けて、金融機関は遺言執行者として遺言の内容を相続人に開示し、遺産分割や財産目録の作成などの遺言執行業務を行います。

遺言信託の利用にかかる費用

遺言信託を利用する際の主な費用は以下の通りです。

金融機関への手数料
遺言信託を申し込む際に支払う手数料で、相場は約30万円前後です。

遺言書保管料
作成した遺言書を金融機関で保管するための費用で、年額約6,000円が相場です。

遺言執行報酬
相続開始後、金融機関が遺言執行者として業務を行う際に発生する報酬で、相場は最低でも100万円以上となります。これは、財産目録の作成や相続財産の調査などの業務に対する報酬です。

遺言信託の利用時に発生しうるトラブルの例

遺言信託は便利なサービスですが、利用する際にはいくつかのデメリットやトラブルが発生する可能性があります。ここでは、遺言信託を利用する際に起こりうる5つのトラブルと、具体的な事例を紹介します。

1. 手数料が高額であることによるトラブル

遺言信託を利用する際には、金融機関への申込み手数料や遺言執行報酬などの費用が発生します。例えば、遺言者が手数料に納得していたとしても、相続が始まった際に相続人が高額な遺言執行報酬に驚き、金融機関とトラブルになることがあります。これは、特に遺言内容や費用について相続人と十分に共有していなかった場合に起こりやすい問題です。

2. 費用分担に関するトラブル

相続が開始すると、遺言執行報酬は相続人が負担することになります。この費用が100万円以上になることが一般的であり、複数の相続人がいる場合には、誰がどのくらい負担するかで争いが生じることがあります。例えば、特定の相続人が過剰に負担を強いられることに不満を抱き、他の相続人との間で対立が深まることがあります。

3. 相続人が遺言内容を知らないことによるトラブル

遺言信託の契約時に、遺言者と金融機関で遺言内容を決定するため、相続人が遺言内容を知らないまま相続が始まることがあります。例えば、相続開始後に相続人が遺言内容を初めて知り、その内容に納得できずに異議を唱えるケースがあります。このような状況は、相続人間の関係を悪化させ、相続手続き全体が遅延する原因にもなりかねません。

4. 金融機関が遺言執行者を辞退することによるトラブル

相続人間で遺言内容や報酬負担について対立が生じた場合、金融機関は遺言執行者としての役割を辞退することがあります。例えば、相続人同士が激しく争っている場合、金融機関がトラブルに巻き込まれるリスクを避けるために辞退を選択することがあります。この場合、新たな遺言執行者を選ぶために家庭裁判所に申し立てる必要があり、手続きがさらに複雑化します。

5. 依頼した金融機関の倒産によるトラブル

遺言信託を申し込んだ金融機関が、相続が開始するまでの間に倒産するリスクもあります。例えば、信託銀行が倒産してしまった場合、相続時に予定していた信託サービスが受けられなくなり、相続人が新たな金融機関を探して遺言書の保管や執行を依頼する手間が発生します。このような状況では、遺言内容の見直しや新たな契約が必要になることが多く、相続手続きが遅延する原因となります。

遺言信託利用時のトラブルを回避するためにできる2つの対策

遺言信託の利用には、トラブルが発生する可能性があることを見てきました。これらのトラブルを未然に防ぐためには、以下の2つの対策を講じることが重要です。

1. 遺言信託の費用について相続人に事前に説明する

遺言信託の手続きは通常、遺言者と金融機関の間で進められますが、相続が開始した際に遺言執行報酬が最低でも100万円以上かかることが一般的です。この高額な費用に相続人が納得できない場合、トラブルが生じることがあります。

これを防ぐために、遺言信託を申し込む際には、手数料の存在や金額について遺言者が事前に相続人に説明しておくことが望ましいです。

弁護士 御厨

相続人が複数いる場合には、手数料の分担方法についてもあらかじめ話し合っておくことで、後々のトラブルを避けることができます。

2. 遺言書作成時に遺族と内容を共有する

遺言信託の申し込み時、遺言者と金融機関の間で遺言内容が決定されますが、相続人の参加は必須ではありません。そのため、相続開始時に相続人が遺言の内容を初めて知り、その内容に不満を抱くことでトラブルになることがあります。

こうしたトラブルを避けるためには、遺言書を作成する段階で遺言者が相続人と内容を話し合い、合意を得ておくことが大切です。

弁護士 御厨

事前に相続人とコミュニケーションを取ることで、相続開始時の不安や不満を減らし、スムーズな相続手続きを進めることができます。

遺言信託を利用するメリット

遺言信託には、費用がかかるだけでなく、トラブルの可能性もあることを先に説明しましたが、それでも利用する価値が十分にあります。遺言信託は、相続開始時の負担を軽減するための有効な手段であり、そのメリットは大きいです。以下では、その具体的なメリットについて見ていきましょう。

1. 煩雑な相続手続きのサポートが受けられる

信託銀行や証券会社など、遺言信託を扱う金融機関には、遺言に関する手続きに精通したスタッフが在籍しています。彼らから遺言書の内容に関するアドバイスを受けたり、遺言書の修正をサポートしてもらえるため、遺言書の作成に必要な専門知識がなくても安心です。

自分で遺言書を作成するよりも、確実で安心できるサポートを受けられる点が大きなメリットです。

2. 相続手続きにおける遺族の負担を軽減できる

遺言者が亡くなると相続が開始されますが、その際、遺産の調査や財産目録の作成といった手続きが必要で、相続人には大きな負担がかかります。さらに、複数の相続人がいる場合には、遺産を分割する際に調整が必要となり、さらに複雑さが増します。

遺言信託を利用することで、これらの煩雑な相続事務を金融機関に任せることができ、相続人の負担を大幅に軽減することができます。

3. 長期的なサポートが受けられる

遺言信託は、遺言者が申し込んでから相続が開始されるまで、長期にわたってサービスを提供してくれる点が魅力です。遺言者が存命中は、遺言書の保管や必要に応じた修正のサポートを受けることができ、相続が開始された後も、遺言執行者として金融機関が相続手続きを代行してくれます。

このように、長期間にわたって一貫したサポートが受けられることは、遺言信託の大きなメリットです。

4. 遺言の実現が確実になる

遺言信託を利用することで、金融機関に遺言の執行を委託することができ、相続開始後に金融機関が遺言執行者として責任を持って業務を行います。

これにより、相続人同士で遺言の執行を進める場合に比べて、遺言書が無視されるリスクが低くなります。また、相続人以外への遺贈など、複雑な遺言内容を実現しやすくなる点も大きなメリットです。

遺言信託を利用するデメリット

遺言信託を利用することで、多くのメリットを得ることができますが、同時にデメリットも存在します。無用なトラブルを避けるためには、デメリットを理解した上で慎重に検討することが重要です。以下に、遺言信託を利用する際の主なデメリットについて説明します。

1. 高額な費用がかかる

遺言信託の最大のデメリットは、その費用の高さです。最初に金融機関に支払う手数料として、最低でも約30万円が必要であり、遺言書の保管料として年額6,000円前後がかかります。さらに、相続が開始された場合には、遺言執行報酬として100万円以上の費用が発生します。このように、遺言信託の利用には高額な費用が伴うため、申し込み前に遺言者と相続人の間で十分な話し合いを持つことが重要です。

2. 財産に関する遺言しか取り扱えない

遺言信託では、金融機関が遺言書の作成や遺産の調査、分割のサポートを行ってくれますが、すべての遺言事項をカバーするわけではありません。遺言信託が取り扱うのは財産に関する遺言のみであり、例えば子の認知や相続人の排除といった身分法上の行為については対応できません。この点において、遺言信託を利用する際には、対応できる内容が限定されていることを理解しておく必要があります。

3. 自筆の遺言書は預けられない

遺言信託では、遺言者と金融機関が遺言内容を話し合い、公証役場で公正証書遺言を作成して保管します。遺言には公正証書遺言のほかに自筆証書遺言もありますが、遺言信託では自筆証書遺言を預けることができません。公正証書遺言は争いが起こりにくいというメリットがある一方で、作成には公証役場での費用がかかります。自筆証書遺言を考えている方にとっては、この点がデメリットとなるでしょう。

遺言信託が必要な人・不要な人とは?

これまでに説明したように、遺言信託にはメリットとデメリットがあります。遺言信託が有効に働く人もいれば、逆にデメリットが大きく、利用しない方が良いと考える人もいます。以下では、遺言信託が必要な人と不要な人について、それぞれの特徴を解説します。

遺言信託が必要な人・向いている人

遺言信託が必要な人や向いている人は、以下のような特徴を持つ方です。

遺言信託が必要な人

  • 資産が非常に多い人
    資産が多い場合、遺産の調査や財産目録の作成、遺産分割などの遺言執行業務が複雑になります。このため、遺言信託を利用することで、専門家にこれらの業務を任せることができ、安心です。
  • 相続人以外にも財産を分けたい人
    相続人以外の人や団体に財産を遺贈したい場合、遺言書の内容が複雑になることがあります。遺言信託を利用すれば、金融機関がその複雑な手続きを管理してくれるため、スムーズに進めることができます。
  • 遺言執行業務を安心して任せたい人
    遺言執行には、遺産の調査や分割など、多くの手続きが必要です。これらの業務に不慣れな場合、遺言信託を利用して専門家に任せることで、確実に進めることができます。
  • 相続トラブルの可能性が低いと見込まれる人
    相続人間でトラブルが少ない場合、遺言信託を利用して金融機関に遺言執行を依頼すると、安心して業務を任せることができます。相続トラブルの可能性が低い場合、遺言信託がスムーズに機能しやすいため、利用に適しています。

遺言信託が向いていない人

  • 資産が少ない人
    遺言信託には高額な費用がかかるため、資産が少ない場合には、コストパフォーマンスが合わないことがあります。
  • 株や預貯金などの金融資産の割合が高い人
    金融資産が中心の場合、遺産の分割が比較的簡単なため、遺言信託を利用せずとも問題なく手続きを進められることが多いです。
  • 家族・親族の仲が良好でない人
    相続人間で対立が予想される場合、金融機関が遺言執行者を辞退する可能性があります。そのため、相続トラブルが予想される場合には、別の方法を検討する方が良いかもしれません。
  • 遺言書に財産以外の内容を含めたい人
    遺言信託は財産に関する内容しか取り扱えないため、身分法上の行為(子の認知や相続人の排除など)を含めたい場合には適していません。

遺言信託は解約できる?

遺言信託を利用する際には、先述したように高額な費用がかかります。そのため、相続が始まった時に相続人がその費用に納得できず、遺言信託を解約したいと考えることがあるかもしれません。

しかし、遺言信託を解約できるかどうかは、金融機関との契約内容に依存します。契約によっては、解約が認められていない場合もあります。また、解約が可能であっても、解約手続きに手間がかかるほか、違約金などの追加費用が発生することが一般的です。

そのため、後々のトラブルを避けるためにも、遺言信託を契約する際には、遺言者と相続人が十分に話し合い、契約内容をしっかり確認しておくことが重要です。

遺言信託に関するトラブルのまとめ

今回の記事では、遺言信託について詳しく解説しました。遺言信託には多くのメリットがある一方で、デメリットやトラブルが発生する可能性もあります。

トラブルを未然に防ぐためには、遺言信託が自分にとって本当に必要かどうかを慎重に検討することが重要です。必要であれば、ファミトラなどの家族信託の専門業者に相談して、最適な選択をするようにしましょう。

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この記事を書いた人

弁護士|注力分野:相続

現在は立川の支店長弁護士として相続分野に注力して奮闘しております。今後も相談者の心に寄り添い、活動していく所存です。どのような法律問題でも、お気軽にご相談ください。

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