預貯金の凍結とは?
預貯金口座の名義人が亡くなると、その口座は「凍結」されます。凍結された口座では、引き出しや預け入れ、振り込みなどの出入金ができなくなります。
このため、故人のご家族は生活資金を引き出せなくなるだけでなく、公共料金などの振替設定がされていた支払いもできなくなり、生活インフラが止まってしまうおそれがあります。
預貯金口座が凍結されるタイミング
金融機関が預貯金口座を凍結するタイミングは、多くの場合、家族が預貯金の手続きを行ったときです。例えば、家族が預金の残高証明書の発行や名義変更の手続きを依頼すると、金融機関は相続の発生を認識し、口座を凍結させます。
積極的に預貯金の凍結をしたほうが良い場合は?
積極的に預貯金口座を凍結させたほうが良い場合もあります。例えば、被相続人の預貯金口座から勝手にお金が引き出される可能性が高い場合です。
具体的には、「父が亡くなり、父と同居していたきょうだいが預貯金を使い込んでいた」という事例はしばしば発生しており、その後の相続をめぐって親族間で揉め事になることがあります。こうした家族による使い込みを防ぐために、相続開始後速やかに名義人の死亡を金融機関に伝え、口座を凍結させることが考えられます。
凍結した預貯金口座の解約・払い戻し方法
凍結した預貯金口座の原則的な取り扱い
まず、凍結した預貯金口座が法的にどのように取り扱われるかを説明します。被相続人名義の預貯金は相続財産となり、法律上は相続人の共有財産となります(民法第898条第1項)。判例によれば、銀行に対する預金債権は相続開始とともに自動的に分割されるのではなく、遺産分割の対象となるため、各相続人は遺産分割をした後でなければそれぞれの相続分に応じた預貯金の払い戻しはできないとされています。
銀行の実務上の取り扱いも、相続人同士のトラブルを防ぐため、被相続人の遺言書または相続人全員の署名・押印(実印)のある遺産分割協議書が揃っている場合にのみ、口座の凍結を解除し、払い戻しに応じるのが原則です。
これらの書類に加えて、自筆証書遺言の検認調書や検認済証明書、相続人関係を証明する戸籍謄本(全部事項証明書)一式、相続人の印鑑証明書等が一般的に要求されます。
遺産分割前の払い戻し制度
遺言書や遺産分割協議書がない場合、どうやって凍結された預貯金の払い戻しを受ければよいのでしょうか。
まず、相続人間で遺産分割内容について協議する必要があります。しかし、遺産分割は相続人間のトラブルが生じやすい場面であり、協議がまとまるまでの期間は事案によって様々です。一人でも同意しない相続人がいれば、一切の払い戻しを受けられないため、故人と同居していた家族が葬儀費用や生活費を必要とする場合に不都合が生じることがあります。
この問題を解決するため、平成30年の民法改正により、遺産分割前の預金の払い戻しを認める2つの制度が新設され、令和元年7月に施行されました。
家庭裁判所の判断を経ないで払戻しができる制度(預貯金の仮払い)
まず、銀行の窓口で所定の手続きを行うことで、相続人が凍結された預貯金の一部を仮払いで受け取ることができます。仮払いを受けられる金額は、相続開始時の預金額×3分の1×法定相続分で、上限は150万円と定められています(民法第909条の2)。
仮払いを受けた場合、その相続人が遺産の一部を分割して仮払い分を取得したものとみなされるため、後の遺産分割において清算が必要です。また、仮払いを受けられる金額を決めるためには、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本(全部事項証明書)、および払戻しを受ける相続人の印鑑証明書を揃える必要があります(金融機関によって必要書類が異なる場合があります)。
家庭裁判所の判断により払戻しができる制度(仮分割の仮処分)
法改正以前も家庭裁判所による保全処分は認められていましたが、改正により要件が緩和されました。具体的には、相続人間で遺産分割の審判または調停の申立てがされていることを前提に、家庭裁判所が、
- 預貯金債権を行使する必要性があること
- 他の共同相続人の利益を害さないこと
のいずれも認めたときに、仮処分を申し立てた相続人は凍結された預貯金の全部または一部を仮に取得することができます(家事事件手続法第200条第3項)。その後、取得が認められた預貯金も含めて、改めて遺産分割の審判または調停が進行します。
仮払いとは異なり、仮に取得できる金額に上限がないことが最大のメリットです。しかし、戸籍謄本一式を揃え、審判または調停の申立てを行い、債権行使の必要性を裁判所に疎明する必要があるため、時間や手間がかかります。
早急に資金が必要であれば簡便な仮払いを、仮払いの上限を超える資金が必要であれば仮分割の仮処分を選択することになります。
払い戻しの手続きは面倒?
手続きの準備段階が大変
預貯金の全部または一部の払い戻しを受けるための手続き自体よりも、手続きの準備段階が最も大変です。
必要な戸籍の取得
相続人全員を特定するために、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍や、相続人全員の戸籍を漏れなく取得する必要があります。それぞれの本籍地の市区町村役場に請求するには非常に時間がかかります。
金融機関の対応
ほとんどの金融機関では、相続関連業務を平日の日中にしか取り扱っていません。取引していた金融機関が複数ある場合は、必要書類の問い合わせだけでも時間がかかります。
預貯金の凍結解除になかなか取り掛かれないときは、お気軽に弁護士にご相談ください。