遺産相続で兄弟による使い込みが疑われる場合の対処法を解説します。親の預貯金や不動産が勝手に使われたり売却されたりしてしまうケースは少なくありません。使い込みが相続発生前か後かで対応が変わり、法定相続分に応じた返還請求や損害賠償請求が可能です。証拠の収集や金融機関への明細請求、介護記録や病院のカルテの活用も重要となります。話し合いで解決しない場合は訴訟も検討が必要です。専門家の弁護士に早めに相談することがトラブル解決の鍵となります。
- 亡くなった父や母の預貯金が使い込まれていた
- 同居していた兄や姉が遺産を使い果たしていた
- 遺産を勝手に使われた場合、取り戻すことはできるのか?
親が亡くなった際、思っていた遺産が実際には残っていないことがあります。
典型的なのは預貯金の使い込みですが、稀に不動産が無断で売却されているケースも見受けられます。
では、あったはずの遺産がなくなっていた場合、どのように対処すればよいのでしょうか?
今回は立川在住の弁護士が、遺産相続時に「遺産が消えていた」場合の対応策をわかりやすくご説明します。
遺産の使い込みとは?
親が亡くなったとき、予想していた遺産がなくなっている場合、特定の相続人や同居者による「使い込み」の可能性があります。
使い込みとは、預貯金や不動産などの相続財産を、権利のない者(多くは同居している相続人)が無断で自分や家族のために使ってしまうことです。
具体例としては、
- 親と同居していた兄が親の預貯金を勝手に使っていた
- 親が認知症になった隙に、同居の兄が資金を使い込んでいた
- 親の死亡後、弟が親名義の口座から一括で出金していた
- 親の所有する不動産を勝手に売却して資金を自分のものにしていた
などがあります。
使い込みが発生した時期によって対応が変わる
使い込みが相続発生前か後かで、対応や考え方が異なります。
相続発生後の使い込み
相続が開始した時点で残っている財産が遺産分割の対象です。
その後、特定の相続人が遺産を使ってしまった場合、他の相続人は使った相続人に対して、自分の法定相続分に相当する金額の返還請求ができます。
既に親は亡くなっているため、「親のために使った」という言い訳は通用しません。
相続発生前の使い込み
問題となるのは、相続開始前に使い込みが疑われる場合です。
この場合、親自身が自分のためにお金を使っていた可能性もあり、同居の子どもへの生活費の負担程度なら「使い込み」には該当しません。
使途不明な出金があっても、全額が返還請求の対象になるとは限らず、家族の生活状況や関係性によって判断されます。
一般的には、数十万円以上のまとまった出金が使途不明なら疑いが強まります。
また親が存命中の場合、使った本人が「親の生活費として使った」や「親の依頼で引き出し、お金は全て渡した」と説明することもあります。
使い込みがあった場合にできる請求とは?
遺産の使い込みが明らかになったら、使い込んだ相続人に対して損害賠償請求や不当利得返還請求が可能です。
使い込みがなければ相続人は法定相続分の遺産を受け取れたはずが、使い込みによって損害が生じているため、不法行為に基づく損害賠償請求ができます。
また、相手が不当に利益を得ているため、不当利得返還請求も可能です。
請求できる金額は、「使い込んだ総額×あなたの法定相続分」に相当する部分です。
例えば、使い込みが300万円であなたの法定相続分が3分の1なら、100万円の返還を請求できます。
返還請求に必要な証拠
返還請求を成功させるには、「使い込みの証拠」が不可欠です。
証拠がなければ、相手は「使い込みはしていない」と否定し、裁判でも勝てません。
主な証拠は以下の通りです。
預貯金口座の取引明細
使い込みが疑われる期間の口座明細を入手し、不自然な出金を特定します。
明細は金融機関に請求できますが、拒否された場合は裁判所に仮処分を申し立てます。
介護記録
被相続人が介護を受けていた場合、判断能力の低下した時期に出金があれば使い込みの可能性が高まります。
介護施設や役所に提出した書類の写しを入手しましょう。
病院のカルテや検査結果
入院期間中に出金があれば、その使途が入院費以外なら使い込みの疑いがあります。
認知症が進んでいる時期の多額出金も要注意です。
返還請求の手続き
使い込みが判明したら、まず証拠を揃え、使い込んだ相続人に直接返還を求めます。
相手が応じれば話し合いで返還額を決め、返金してもらいます。
応じない場合や合意できない場合は、訴訟での解決が必要です。
不法行為や不当利得に基づく請求には消滅時効もあるため、早めの対応をおすすめします。