東京都立川市の法律事務所|60歳目前の社長必見!定款の落とし穴と会社を守る相続対策

こんにちは。立川市のスフィア法律事務所の代表弁護士のみくりやです。本日は、「60歳目前の社長必見!定款の落とし穴と会社を守る相続対策」について、詳しくお話ししていきます。
会社を経営されている方にとって、ご自身の相続や事業承継は「まだ先の話」と感じられるかもしれません。しかし、社長に万一のことがあったとき、会社が法的に身動きの取れない状態に陥ってしまう例は決して珍しくありません。その分かれ目になるのが、普段ほとんど意識することのない「定款」の中身です。今回は、特に60歳前後の経営者に知っておいていただきたい定款の落とし穴と、会社・ご家族を守るための備えについてお話しします。
なぜ60歳前後の社長こそ「定款」の確認が必要なのか
多くの会社では、設立時に作成した定款をそのまま使い続け、その内容を改めて確認する機会がほとんどありません。「会社のルールブック」とも言える定款ですが、いざ読み返してみると、自社がどのような機関設計になっているのかを正確に把握していない社長が非常に多いのが実情です。
60歳前後は、ご自身の健康や引退後の生活、そして会社の将来を具体的に考え始める時期です。弊所が事業承継や相続のご相談を受けるのも、60歳前後の方が多いです。役員の構成や株式の取り扱いに関する定めが、社長に万一のことがあったときの会社の「動かしやすさ」に直結するのです。まずは一度、ご自身の会社の定款を引っ張り出し、現在の機関設計を確認することが、すべての出発点になります。
「取締役会設置会社」「監査役設置会社」という思わぬ落とし穴
定款を確認する際にまずチェックしていただきたいのが、「取締役会設置会社」「監査役設置会社」になっていないか、という点です。これらは、取締役会や監査役を必ず置くことを定款で定めている会社を指します。
大企業であれば当然の体制ですが、問題は、実態としてはほぼ社長お一人で動かしているような会社でも、こうした体制になっているケースが少なくないことです。会社設立の際に、どこかで入手したひな形の定款をそのまま使ってしまい、本来は必要のない取締役会や監査役を置く設計になっている、というパターンです。
取締役会設置会社では、原則として取締役が3名以上必要であり、加えて監査役などの機関も求められます。経営の実態と定款上の体制が食い違っていると、社長に万一のことがあったときに、思わぬ形で会社が立ち行かなくなるおそれがあるのです。
取締役が3名ギリギリだと社長の万一で会社が止まる
取締役会設置会社では、取締役は最低でも3名必要です。ここに大きな落とし穴があります。
例えば、取締役が3名で、そのうち1名が社長というケースを考えてみましょう。実質的には社長がすべてを取り仕切り、他の2名は名前を貸しているだけ、というのはよくある話です。この状態で社長が亡くなってしまうと、取締役は2名に減り、法律上必要な3名を欠くことになります。
取締役が法定の人数を欠くと、取締役会を適法に開くことが難しくなり、会社としての重要な意思決定ができなくなってしまいます。まだ多くの事業を行っている間に、社長が急逝してしまうと大変です。しかも、残った取締役が普段は経営にほとんど関わっていない場合、責任の重さからその就任をためらい、会社の舵取りをする人が不在のまま、時間だけが過ぎていくことになります。
株式が社長に集中していると株主総会すら開けなくなる
会社を動かすうえで、もう一つ見落とせないのが「株式」の問題です。役員の選任は、本来、株主総会で決議すべき事項です。つまり、新しい取締役を選ぶには、株主総会をきちんと開いて決議する必要があります。
ところが、社長が会社の株式の大半を持っている、いわゆるオーナー経営の会社では、社長が亡くなるとその株式が相続の対象となります。遺産分割が終わるまでの間、株式は相続人全員の準共有状態となり、誰がどのように議決権を行使するのかがすぐには定まりません。相続人の間で話がまとまらなければ、株主総会で有効な決議を行うこと自体が難しくなります。
普段、株式や株主総会とは無縁という会社も多いと思いますが、法的に有効な手続きを進めるためには、株主総会と取締役会が適切に機能することが欠かせません。株式が一人に集中していることは、平時には効率的でも、万一のときには大きなリスクになり得るのです。
こうしたリスクへの備えとして、定款にあらかじめ「相続人等に対する売渡請求」の定めを置いておくことも重要です。これは、相続などによって株式を取得した相続人に対し、会社がその株式を会社へ売り渡すよう請求できるようにする仕組みです(会社法174条)。あらかじめ定款に定めておくことで、株式が複数の相続人に分散・凍結してしまう事態を防ぎ、会社が株式を集約して経営を安定させやすくなります。ただし、設計を誤ると、社長自身の相続の場面で他の株主にこの請求を使われ、かえって経営権を失うリスクもあるため、導入の際は弁護士など専門家とともに慎重に設計することが大切です。
そこで、定款の中に、相続発生時には会社が相続人に対して株式の買取りを強制できるという内容を入れておくことも重要です。
実際にあった「黒字なのに倒産」してしまったケース
私が実際に関わった案件にも、こうしたリスクが現実になってしまった例があります。
ほぼ社長お一人で切り盛りするワンマン経営の会社でしたが、設立時にどこかから持ってきたひな形の定款を使っていたため、取締役会と監査役を置く設計になっており、取締役は3名ぎりぎりという状態でした。そのまま長年が過ぎ、ある日突然、社長が急逝してしまいます。
残された会社では、会社名義の銀行口座からの引き出しや、リース物件・オフィスの契約更新など、事業を続けるために欠かせない手続きが山積みでした。しかし、社長以外の取締役2名は普段ほとんど会社の経営に関わっておらず、代表取締役に就任してこれらの手続きを担うことに二の足を踏んでしまいました。ほかに取締役の候補もいないため、取締役会も機能しません。結局、会社は動かせないまま、事業そのものは黒字であったにもかかわらず会社は解散して清算に至ってしまいました。業績もいい会社だったので、事前の備えがあれば防げたかもしれない、非常に残念なケースでした。
会社とご家族を守るために今から始めたい備え
こうした事態を防ぐために、今からできる備えはいくつもあります。
1点目は、定款の見直しです。経営の実態に合わない取締役会設置会社・監査役設置会社の体制になっている場合には、取締役会を置かない会社へ移行するなど、機関設計をシンプルに整えることを検討する価値があります。
2点目は、役員体制の整備です。万一に備えて、実際に経営を引き継げる後継者や、予備の役員候補をあらかじめ確保しておくことが大切です。
3点目は、株式の承継方法の整理です。誰に株式を引き継ぐのかを生前に明確にし、遺言の作成や、種類株式・属人的株式といった仕組みの活用も視野に入れておくと安心です。
そして何より、これらは会社ごとに最適な進め方が異なります。自社の定款や株式の状況に不安がある場合には、元気なうちに弁護士などの専門家へ確認し、現状を点検しておくことをおすすめします。
まとめ
社長に万一のことがあったとき、会社がスムーズに動き続けられるかどうかは、普段は意識しない「定款」の中身に大きく左右されます。特に、実態に合わない取締役会設置会社・監査役設置会社になっていないか、取締役の人数に余裕があるか、株式が一人に集中していないか、といった点は要注意です。これらが整っていないと、たとえ事業が黒字であっても、会社を動かせずに倒産に追い込まれるおそれすらあります。
会社とご家族を守るためには、元気なうちに定款と株式の状況を確認し、必要な備えを整えておくことが何よりの対策です。60歳前後を一つの節目として、ぜひ一度、自社の体制を見直してみてはいかがでしょうか。




