東京都立川市の法律事務所|自筆証書遺言保管制度とは?公正証書遺言との違いと利用のポイント

こんにちは。東京都・立川市のスフィア法律事務所の代表弁護士のみくりやです。本日は、「自筆証書遺言保管制度とは?公正証書遺言との違いと利用のポイント」について、詳しくお話ししていきます。

「自筆で遺言を残したいけれど、家族がちゃんと見つけてくれるか心配」——遺言書の作成をお考えの方から、このようなご相談をいただくことがあります。この不安に応える形で令和2年にスタートしたのが、「自筆証書遺言保管制度」という新しい仕組みです。本記事では、この制度の内容や公正証書遺言との違い、実際の使い方の注意点を、実務の目線で解説します。

目次

自筆証書遺言保管制度とは?令和2年に始まった新しい仕組み

自筆証書遺言保管制度は、令和2年7月10日にスタートした、自筆で書いた遺言書を法務局に預けて保管してもらえる制度です。従来、自筆で作成した遺言書は、ご自宅の金庫や引き出しなど、ご自身で保管するしかありませんでした。この制度によって、公的な機関に安全に預けられる選択肢が生まれたのです。

制度自体は始まって5年ほどが経ちましたが、実感としては、ご自身から「保管制度を使いたい」というお問い合わせをいただくことは、これまで一度もありません。まだまだ一般の方に広く知られている制度ではないというのが正直な印象です。

一方で、私からご紹介する場面は増えています。特に、まだお若く、ご自身の手で遺言を書きたいという意向が強い方が自筆証書遺言を検討される際に、私からこの保管制度の利用をおすすめすることが多くなっています。認知度は低いけれど、知れば使いたくなる制度、と言えるかもしれません。

従来の自筆証書遺言が抱えていた課題と保管制度による解決

保管制度が生まれた背景には、従来の自筆証書遺言が抱えていた実務上の悩ましい問題があります。

ご相談の中でよく耳にするのが、「亡くなったお父さん・お母さんから『遺言書がある』と生前に聞いていたのに、いざ亡くなった後に探しても見つからない」というケースです。ご本人としては「大切に隠しておいた」つもりでも、その場所を家族に伝えないまま亡くなってしまうと、遺言書が発見されないまま相続手続きが進んでしまいます。また、長い年月を経て紙が変色し文字が読みづらくなっていたという事例もあります。

保管制度は、この2つの問題を解消してくれます。法務局に持ち込むと、遺言書はパソコンでスキャンして電子データとしても保管されます。そのため、紙が色褪せて内容が読めなくなるという心配はありません。原本と画像データが法務局で確実に保管されるので、家族が「どこにあるかわからない」という状態にもなりません。

ただし、注意しておきたいのは、保管制度はあくまで「遺言書を預かる」制度であって、遺言書の中身についてまでは保証してくれない点です。どういう内容を書くかは、あらかじめご自身でしっかり調べたり、専門家に相談したりして作る必要があります。

「通知制度」——遺言があることを確実に伝える仕組み

保管制度の中で、私が最も魅力的だと感じているのが通知制度です。特に「指定者通知」——遺言者があらかじめ指定した方に、亡くなった時点で法務局から遺言書が保管されている旨が通知される仕組みは、この制度ならではの大きなメリットです。実は、公正証書遺言にはこのような自動通知の仕組みがなく、保管制度独自の強みと言えます。

もし通知制度がなかったらどうなるか。遺言書があるにもかかわらず、家族が気付かないまま遺産分割が進み、結果として遺言書が事実上無視されて相続が完結してしまう、というリスクが現実にあります。公正証書遺言を作った場合も、亡くなったときに家族へ自動的に知らせる仕組みはないため、「作ったこと自体が家族に伝わっていない」という事態は十分起こり得ます。

このため、実務では応用的な使い方もあります。たとえば、ご高齢で全文を自書することが難しい方が、公正証書遺言を作成した上で、「私の公正証書遺言は○○公証役場に預けてあります」といったメモを、自筆証書遺言の形式で書いて保管制度に預けるという方法です。保管制度は形式要件を満たしていれば内容の実質までは問わないので、こうした「保管場所のご案内」も預けることができ、通知の恩恵を家族に届けることができます。

公正証書遺言との違いと、どちらを選ぶかの判断基準

「では公正証書遺言と、保管制度を使った自筆証書遺言、どちらを選べばよいか」——これはご相談の際に最も多くいただく質問です。判断の基準はいくつかありますが、実務上、最も重視しているのは「ご自身で最後まで手書きできるかどうか」です。

年齢が一定以上のご高齢で、長文をご自身の手で書き切ることが難しい方には、迷わず公正証書遺言をおすすめしています。公証人が作成に関わるため、体力的な負担が大きく減ります。また、複雑な内容の遺言を残したい場合も、公正証書遺言をおすすめしています。弁護士が関与して原案を作成し、さらに公証人にも内容を確認してもらう「三段構え」で作成できるので、後々の紛争リスクを大きく下げることができます。

一方、まだ60代前後で、ご自身の手で無理なく書ける方で、遺言の内容もそこまで複雑でないという場合には、迷わず保管制度を使った自筆証書遺言をおすすめしています。作成のコストや手間が大きく抑えられ、それでいて先ほどの通知制度の恩恵まで受けられるからです。

「自分の手で書き残す」ことに強い思い入れがある方にとっては、保管制度は最良の選択肢の一つになり得ます。

保管制度の手続きの具体的な流れ・費用・必要書類

保管制度を利用する際に、意外とご存じない点をいくつかお伝えします。

まず、最寄りの法務局なら必ず対応してくれる、というわけではありません。法務局には本局・支局・出張所という区分がありますが、「出張所」では保管制度に対応していない場合があります。たとえば、当事務所から最も近いのは法務局立川出張所ですが、立川出張所は本制度に対応していないため、八王子の支局で対応することになります。ご自身の地域で対応する法務局を事前に確認しておくことが第一歩です。

次に、遺言書の様式にも注意が必要です。保管の際に法務局がスキャンして保存する関係で、余白のルールが厳しく決められています。用紙サイズや余白幅などのルールに従った書面を作成しなければなりません。また、予約と申請書の作成には、PDFフォームに対応したAdobe製のソフトを使うことが求められるため、パソコン操作に慣れていない方にとってはハードルになります。

当日は、手数料3,900円が必要です。法務局で収入印紙を購入して支払う形なので、必ず現金をご用意ください。あわせて、住民票、遺言書の本体、本人確認書類も持参します。管轄の法務局によっては、必要書類が揃っているかを事前にメールで確認してくれるサービスを用意しているところもあり、活用すると安心です。

利用時に気をつけたいポイント(形式チェックのみ・内容の有効性は保証外)

繰り返しになりますが、この制度で最も注意していただきたいのが、法務局は遺言書の中身を審査してくれないという点です。

法務局がチェックしてくれるのは、あくまで自書されているか、日付があるか、氏名の記載や押印があるかといった形式面や、先ほど触れた余白ルールに沿っているかといった紙面の整備状態のみです。「その遺言の内容が法的に有効か」「実際に相続の場面で執行できる書き方になっているか」といった実質的な部分は、一切見てくれません。

したがって、書いた自筆証書遺言の内容が法的に有効なものでなければ、せっかく保管してもらっても、いざ相続が発生したときに遺言そのものが機能しないという事態になりかねません。

制度自体がまだ新しいため、当事務所でも保管制度を利用された方の相続が発生した事例には、まだ遭遇していません。ですが、だからこそ「保管はしたけれど内容が不十分で執行できなかった」という結末を迎える方を出さないためにも、遺言書の内容作成の段階で、必ず弁護士など専門家にご相談されることを強くおすすめします。「保管する箱」と「箱の中身の質」は別問題、というのが実務からの一番のメッセージです。

まとめ

自筆証書遺言保管制度は、自筆で書いた遺言書を法務局が保管し、亡くなった際に指定した方へ通知までしてくれる、令和2年にスタートした新しい制度です。「遺言書が見つからない」「色褪せて読めない」といった従来の自筆証書遺言の悩みを解決し、公正証書遺言にはない通知の仕組みも備えています。

一方で、内容の適法性・有効性は保管制度では保証されません。手続き面でも、管轄法務局の確認や余白のルール、PDFソフトの準備など、意外な落とし穴があります。

「まだ手書きで無理なく書けて、内容が比較的シンプルな方」には保管制度を、「ご高齢で書くのが大変な方、複雑な内容を確実に残したい方」には公正証書遺言を——という使い分けが基本です。作成をご検討される際には、内容の適法性を含めて、早めに弁護士などの専門家にご相談されることをおすすめします。

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